石破茂(C)週刊実話Web

「これを全くやらないということであれば、自公は過半数に届いていないわけですから、予算も通らない、法律も通らないということだと思います」

自民党との政策協議開始で合意した10月31日、国民民主党の玉木雄一郎代表は記者会見でこう語り、自民党を牽制した。

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国民民主党は衆院選で、所得税の負担が生じる「年収103万円の壁」を見直し、178万円に引き上げるよう主張してきた。

ガソリン税を一時的に引き下げる「トリガー条項」の凍結解除も掲げて戦い、議席は公示前の7議席から28議席にまで増やした。

いまやイケイケの国民民主党。玉木氏は多くの番記者を連れて国会内を歩くなど、国民民主党を取り巻く光景は衆院選前から様変わりした。

ただ、自民党内からは玉木氏主導の動きに反発が出ており、自民党総裁選に出馬するなど政策通で鳴らす林芳正官房長官は記者会見で「103万円の壁」の見直しについてこう反論した。

「単純に基礎控除の額を国と地方で75万円ずつ引き上げた場合の減収額を計算すると、国、地方で7〜8兆円程度の減収と見込まれる。基礎控除などの所得控除は高所得者ほど減税の影響額が大きくなることは事実だ」

7〜8兆円の財源はどうするのか。高所得者への減税効果が大きいわけだが、それでいいのか。そう問題提起したわけで、財務省の入れ知恵なのは間違いないだろう。

玉木氏は林氏の反論に相当カチンときているという。「103万円の壁」の見直しは国民民主党が掲げた公約の“一丁目一番地”の政策である。

これすら実現できないとなれば、キャッチフレーズとして掲げた「手取りを増やす。」という看板に偽りありということになってしまう。

「石破おろし」の震源地は参院自民党

ただ、与党過半数割れという現実を顧みれば、自民党も正論ばかり吐いているわけにもいかず、党内からは「国民民主の政策を丸のみするしかない」(閣僚経験者)との声も強い。

それどころか自民党内には、11月11日召集予定の特別国会で実施する首相指名選挙で「石破茂」と書かずに「玉木雄一郎」と書こうとする動きすらくすぶり、穏やかではない。

全国紙政治部記者の話。

「衆院選は終わったばかりで、裏金問題の影響で逆風の中、戦ってきた各議員は疲弊しています。アンチ石破の旧安倍派は大量に落選しました。今すぐ『石破おろし』が起きる雰囲気ではありません。自公と国民民主が政策ごとに協議する『部分連合』という形で当面は推移することになります。政局が流動化するのは来年夏の参院選の前なのではないでしょうか」

衆院選で惨敗したときの首相を参院選でも据えたままにするはずもなく、「石破おろし」の震源地は参院自民党ということになりそうだ。

ただ、今の参院自民党に戦闘能力が高い議員は見当たらない。

そこで「石破おろし」の首謀者になり得る人物としてささやかれているのが、衆院和歌山2区で二階俊博元幹事長の三男相手に勝ち上がった世耕弘成前参院幹事長だ。

裏金問題で離党処分を受けたため目下無所属だが、自民党会派入りを果たし、いまだに参院自民党に影響力を持つ。

「石破おろし」が奏功した場合は、この前のような全党員を含むフルスペックの総裁選ではなく、国会議員を中心に選ぶ総裁選になりそうだ。

このとき誰が選ばれるかは予断を許さないが、政治部デスクはこう語る。

「立憲民主党は参院選に向け、来年の通常国会も裏金問題で自民を攻め続けるはずで、内閣や党の支持率が急上昇することはないでしょう。そこで自民党内でささやかれているのが、玉木氏を首相に据えての自公国連立です。自民党、社会党、新党さきがけの『自社さ』連立政権で誕生した村山富市内閣のいわば令和版です」

このシナリオは自民党の延命を意味するため、国民民主党にとってイメージダウンとなる危険性をはらんでいる。

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野党再編が最大のカギ

その一方で玉木氏が首相になれば、国民民主党が掲げる政策は実現しやすくなるだろう。

現段階では玉木氏は自公連立入りをかたくなに否定し、「ポストとかそういう問題ではない」(国民民主党幹部)とは言うものの、首相となれば話は別だ。

ただ、「103万円の壁」の見直し一つ取ってもギクシャクしている自民党と国民民主党である。自公国政権で玉木首相というのは、なかなかハードルが高そうだ。

そこで、もう一つのシナリオが浮上する。政治部野党キャップは、「これも自民党総裁が石破氏から別の人に変わった場合の話ですが」と前置きし、こう続ける。

「国民民主が参院選を前に自民と距離を置き、立憲に急接近する可能性はあります。首相指名選挙で立憲議員に書いてもらう名前は『玉木雄一郎』です。こういうウルトラCを仕掛けられるのは立憲の小沢一郎氏しかいません。ただ、自民会派に非公認で当選した議員らが加わったこともあり、立憲、維新、国民だけでは首相指名選挙で勝てない。れいわ新選組や共産党の協力を得る必要がありますが、そうなると国民民主が逃げる可能性があります」

結局、政界の力学を大きく変えるには「野党再編しかない」との声は少なくない。政治担当の論説委員はこう見る。

「立憲の最大の弱点は、辻元清美参院議員に代表されるように左派系がいることで、外交・安全保障政策で現実路線を取れず、国民から信頼を十分に勝ち取れないという点です。党の左派的な体質に嫌気が差している保守系若手議員はかなりいます。このような立憲議員が大量に離党し、国民民主党入りすれば、事態は一気に変わります」