コンテ・ナポリを完封! アタランタのガスペリーニ監督が試みた“効果的な戦術的一手”とは「CFレテギを外し、トップ下にパシャリッチを入れ…」【現地発コラム】

 セリエA第11節で最大の注目カード、首位ナポリと3位アタランタの上位対決はアウェーのアタランタが0ー3の完勝。順位は変わらないながら勝点差を3まで縮め、首位戦線に本格参入を果たした。

 首位ナポリ(勝点25)が敗れて足踏みした一方で、アタランタ(同22)に加え2位インテル(同24)、4位フィオレンティーナ(同22)、5位ラツィオ(同22)、6位ユベントス(同21)が揃って勝利を収めたことで、順位表はナポリが頭一つ抜け出していた状況から一変、上位6チームが勝点差4の間に固まる混戦状態へと転じている。

 この直接対決、試合を分けたのはナポリのアントニオ・コンテ、アタランタのジャン・ピエロ・ガスペリーニという両監督の采配だった。

 ガスペリーニ監督は、10節終了時点で10試合10得点と絶好調のCFマテオ・レテギをあえてスタメンから外し、代わりに攻撃的MFのマリオ・パシャリッチをトップ下に入れる思い切った策で、ナポリの後方からのビルドアップを分断。さらに前線のロメル・ルカク、マッテオ・ポリターノ、フビチャ・クバラツヘリアもタイトなマンマークで自由にさせず、攻め手をほぼ完全に封じ込めた。

 それに対してコンテ監督は0ー2で迎えた62分、71分、76分に行なった三度の選手交代を通して、前線の4人をすべて入れ替えるなど対応を試みたが、効果はほとんどなし。逆に90分を回ったところで、途中出場していたレテギに駄目押しの3点目を許し、文字通りの完敗を喫した。

 ナポリは、開幕戦でヴェローナに0ー3で敗れるショッキングなスタートの後、2節から10節までの9試合を8勝1分けのハイペースで駆け抜け、勝ち点25で首位を走っていた。とはいえ、その10試合のうち上位陣との対戦は5節のユベントス(0ー0)と10節のミラン(2ー0)の2試合のみ。このアタランタ戦は、その意味で「コンテ・プロジェクト」の進捗度を見極める格好の試金石と見られていた。

 コンテ監督は就任当初、2011ー12シーズンから率いた全てのチーム(ユベントス、イタリア代表、チェルシー、インテル、トッテナム)で用いてきた3バックの導入を試みた。しかし、開幕後の8月末、スコット・マクトミネイ、ビリー・ギルモアという実力派MFを中盤に獲得したのを受ける形で、基本システムを4バックに変更する大きな決断を下し、チーム戦術の構築に取り組んできた。

【動画】ルックマンのスーパーゴールも! ナポリ対アタランタのハイライト
  ベースは4ー3ー3ながら、攻撃時には4ー2ー2ー2、守備時には4ー5ー1または5ー4ー1と、局面に応じて配置が切り替わる可変システムに特徴がある。とりわけ攻撃時の配置は、ポリターノ、クバラツヘリアの両ウイングが、外に開いて幅を取るのではなく内に絞って2列目を構成し、さらにマクトミネイが中盤から最前線に上がってルカクと並ぶことで、前線の4人がピッチ中央で正方形に近い位置関係を作るという独特なものだ。

 この4ー2ー2ー2の配置から、後方の4+2ユニットによるパス回しで相手のプレスを外し、「前線の正方形=2+2」に対して、サイドからのダイアゴナルパス、あるいは後方からの縦パス(ロングボールも含む)でボールを送り込み、それをスイッチにこの4人のコンビネーションで一気にフィニッシュに持ち込む――。これが、コンテ監督が築きつつあるナポリの主要な攻撃の形になっている。

 対するアタランタのガスペリーニ監督は、通常用いるレテギを1トップに据えた3ー4ー2ー1ではなく、前述したようにパシャリッチをトップ下に置いた3ー4ー1ー2の配置とし、そのパシャリッチにナポリのビルドアップの核となるアンカーのギルモアをマークさせることで、中央ルートのパスコースを遮断。さらに緻密なマンツーマンシステムで前線のアタッカー陣をタイトにマークし、前を向いてパスを受けさせないことで、ナポリの攻め手を完全に封じ込めた。

 ナポリが後方でパスを回しても中盤へのパスルートが切られ、誘導されるようにサイドに展開しても、そこから前線に送り込むパスの受け手はすべてマークされている状況だ。前線でマークを背負ったルカクに最終ラインから直接ロングボールを送り込むという、唯一の逃げ道を使う場面が多くなった。

 強靭なフィジカルを活かし、DFを背負ってもボールを収めることができるルカクは、コンテ監督がかつて率いたインテルでそうだったように、ナポリにおいても攻撃の基準点として絶対不可欠な存在と位置付けられている。前述したサイドからのダイアゴナルパスや、後方からの縦パスのターゲットとなり、ポストプレーからの落としでクバラツヘリアやマクトミネイに前を向かせるのが主要な役割だ。

 しかしそのルカクも、マークを担当したCBイサク・ヒエンとのデュエルで劣勢に立たされ、ロングボールを収めることはもちろん、ワンタッチのポストプレーで味方に落としてつなぐことすらままならない。この試合のデュエル勝率0パーセントというデータに、ルカクが陥った困難が端的に現われている。
  かくしてナポリは、敵陣までボールを運んで相手を押し込む以前にミドルゾーンでボールを奪われ、アタランタにボールを委ねて受けに回る展開を強いられた。10分という早い時間帯に喫した先制点は、ポゼッションで押し込まれて左サイドからのクロスを許し、そのクリアを拾っての二次攻撃からアデモラ・ルックマンに決められたもの。

 前線に6~7人を送り込むアタランタの攻撃の前に受け身の対応を強いられ、タイミング良く後方から入り込んできたルックマンを誰も捕まえられずフリーにした結果の失点だった。

 その失点直後、ルカクがこの試合で初めてヒエンのマークを逃れて成功させたポストプレーから、その落としを受けたマクトミネイが放ったゴールポスト直撃のシュートが、ナポリが流れから作り出した唯一の決定機らしい決定機になった。

 31分、そのナポリが珍しく押し込んだ直後に、カウンターアタックからアタランタの追加点が生まれる。クバラツヘリアが左サイドから強引なドリブルで中央に持ち込んだボールを奪ったところから、高めの位置に攻め残っていたシャルル・デ・ケテラーレがドリブルで持ち上がり、2人をかわして逆サイドのルックマンに展開。パスを受けたルックマンは、左45度から強烈なミドルシュートをゴール右隅に突き刺した。

 昨シーズンのヨーロッパリーグ決勝で、レバークーゼン相手にハットトリックを決めて優勝の立役者になったルックマンは、左ハーフスペースからの仕掛けから見せる強力なシュートが最大の持ち味。時には強引に見えるほど積極的にシュートを打っていくが、その多くはしっかり枠を捉えている。9節のヴェローナ戦に続く今シーズン二度目の「ドッピエッタ(1試合2得点)」で得点数を6に伸ばし、得点王ランキングで3位タイに浮上した。

 そのルックマンを上回り、得点王ランキングのトップを走るのがレテギだ。この試合は指揮官の戦術的選択でスタメンを外れたものの、76分にデ・ケテラーレに替わって途中出場すると、92分に右サイドからのクロスをボレーシュートでゴール右隅にねじ込み、シーズン11点目をマークした。
  アルゼンチンリーグ中位のティグレからジェノアに移籍したセリエA1年目の昨シーズンは、年間で7点しか挙げられなかったことを考えると、アタランタに移籍した今シーズンの進歩は著しいものがある。

 前線で孤立することが多かったジェノア時代と比べ、アタランタでは複数の選手から近い距離でサポートを受けることが可能であり、その恩恵を受ける形で手に入れた決定機を、持ち前の得点感覚でしっかりゴールに結びつけている。

 実際、90分あたりのシュート数はリーグ1位、枠内シュート数、ゴール期待値(xG)もトップ3位に入っている。ここまで打ったシュート37本(うち枠内14本)の累積xG6.8に対して、その期待値を4.2も上回る11ゴールを挙げているのだから、そのゴールセンスは本物だ。

 アタランタは終始押し気味の展開で試合をコントロールし、ナポリにつけ入る隙を与えなかった。ガスペリーニ就任9年目でチームの骨格が完全に固まっているうえに戦術の完成度も高く、この試合で見せた3ー4ー1ー2のようなバリエーションも完璧に消化してこなすことができる。

 昨シーズンの中核だったトゥーン・コープマイネルスをユベントスに引き抜かれ、CFジャンルカ・スカマッカもプレシーズンの靭帯断裂で長期離脱(その穴埋めに急遽獲得したのがレテギ)する困難に直面しながら、すでにこの水準に到達しているのは、長年保たれてきたチームとしての継続性と一貫性が堅固な土台となっているからこそだろう。

 一方のナポリは、攻撃の基準点であるルカクのポストプレーが封じられると、それに替わる攻め手がなく、手詰まりになるという弱点を露呈した格好だ。ただ、コンテは就任1年目でチームの戦術もまだ構築途上であり、レパートリーの幅を拡げる段階には到達していないことが、この試合で明らかになったと言える。「コンテ・プロジェクト」は、軌道には乗ったものの、まだまだ初期段階ということだ。

文●片野道郎

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