「地域伝統行事お助け隊」――。祭りの準備や神輿の運行など、さまざまな理由で人手が不足しているお祭りに対して、ボランティアを派遣する仕組みで、福岡県が全国に先駆けて始めた制度だ。
筆者・稲村はこの制度を通じて、2024年9月29日、福岡県飯塚市の大分(だいぶ)八幡宮の仲秋の大祭に派遣された。そして神輿の運行や流鏑馬の馬場づくりなど、祭りの裏方として貴重な体験をすることができた。
私が地域伝統行事お助け隊として実際に参加する中で聞いた、祭り主催者やボランティア参加者の声と合わせ、福岡県の担当者に伺った、スタートして約1年となるこの先進的な取り組みの実績や課題、今後の展望などをリポートする。
まずはホームページから登録!
伝統行事お助け隊のホームページ(https://fuk-otasuketai.jp/)
「地域伝統行事お助け隊」への参加の流れはこうだ。まず、公式サイトでお助け隊としての登録を行う。住所、氏名と連絡先etc.…。指定情報の入力でマイページが開かれ、ここを通じて事務局(福岡県政策支援課)とのやりとりが可能になる。ホームページに掲載されている募集中の祭りへの参加を申し込むと、行事が実施される自治体の担当者から詳細な説明と参加意思の確認を兼ねた電話があった。派遣が決定すると、主催者からも丁寧なメールをいただき、開催日が待ち遠しくなる。
いざ、大分八幡宮へ
大分八幡宮の獅子舞
僕が参加を申し込んだ大分八幡宮放生会は、例年9月最終土日に2日間にわたって行われる。八幡神社の総本宮・宇佐神宮の創建翌年にあたる神亀3(726)年に大分八幡宮は創建されたと伝わり、放生会も記録があるだけでもおよそ1100年以上も続いている。
祭り2日目は神輿の渡御、獅子舞や流鏑馬なども行われ、多くの見物客で賑わう。そして今回、われわれお助け隊が出動したのは、この神輿渡御や流鏑馬のお手伝いのためなのだ。
在野の獅子舞研究家として全国500以上を行脚してきた僕は、獅子舞に強い関心があったこともあり、2024年9月29日、気持ちの良い晴天のもと、JR篠栗線に乗り込み、勇んで大分八幡宮を訪れた。
初めての体験。心地よい充実感!
お助け隊は他に3名が参加していた。僕のように関東から飛んでくる者はさておき、熊本県から2時間ほど車で運転してきた方もいたが、基本的には県内の方が多いようだ。
迎え入れてくださった主催者の皆さんと顔合わせののち、スケジュールが確認される。本日の、お助け隊の動きは以下のような流れだ。
11:00 「お助け隊」集合
11:00~11:30 神輿出庫、清掃
11:30~12:30 昼食休憩 お弁当あり
12:30~14:30 流鏑馬のため、杭・ロープ、的板を準備して馬場づくり
獅子舞後に流鏑馬開始、観客の誘導
15:30~18:30 町内練り歩きの際に、神輿の運搬
18:30~19:00神輿を神輿庫に納める
伝統行事お助け隊と地元の担い手が神輿を掃除する様子
最初のお仕事は神輿を倉庫から出して、雑巾で拭いて綺麗にすることだ。繊細な飾り金具、漆塗りの屋根。立派な宮神輿を細部まで拝見しながら、心を込めて磨く。「どこから来られたんですか?」「遠くからありがとうございますね」などと地元の人たちとの会話も楽しい。
1時間のお昼休憩があり、お弁当をいただいてから、続いて流鏑馬のコース作りとなった。杭を地面に打ってそこにロープを通す。その間、境内の池では地元の子供達によって鯉が池に放たれる放生会、次いで獅子舞が行われる。大分八幡宮の獅子舞は、京都・石清水八幡宮から伝わったものだという。2体の獅子が一対で踊る様子は見ものだ。
獅子舞も気になるが、今日の僕は「お助け隊」。馬場を整えているとあっという間に本番の流鏑馬が始まる。八幡宮は、特に源氏武士から武神として篤く信仰され、総本宮の宇佐、鎌倉・鶴岡八幡宮はじめ流鏑馬の奉納が有名だ。大分八幡宮の流鏑馬は、江戸時代中期の1723年から続くという。古式ゆかしい衣装を纏った騎馬武者が格好いい。駆け抜けてゆく馬、見事な弓捌き。矢が的に命中するたびに大きな歓声が上がる。お助け隊は、射抜かれた的を交換するという大役を務めながら、観客が的に近づかないよう誘導した。息つく暇もなく、終わったら杭とロープを回収。その後、担ぎ手の方々と一緒に神輿を運び、地域を一周する。
大分八幡宮の流鏑馬
神輿は、2時間ほどかけて地域をぐるりと回る。僕はこれまであまり神輿を担ぐ経験はなかったが、担いでいる時に神輿の飾りがチリチリンと揺れる音がたまらなく趣があって、これは神輿を担がないとわからないことだと思った。そして神輿を置くタイミングや担ぐ高さにも配慮する必要があり、皆で呼吸を合わせることの大事さも感じた。
神輿は無事に宮入り。最後に神輿庫に納めてお助け隊の仕事も終了だ。
今回一緒に参加した方に動機を尋ねてみると、「祭りに準備の段階から関われることは少ないから、興味を持った」「見ているだけじゃ物足りないから」「お祭りの写真を撮るのが好きなので、自分が神輿を持っている視点で写真を撮ってSNSにあげたかった」とさまざま。僕も、準備から片付けまで、裏方を務められる機会はなかなかないので大変貴重な経験をさせていただいた。
福岡県庁の方にインタビュー
翌日、伝統行事お助け隊について、福岡県庁にて企画・地域振興部 政策支援課の方々にインタビューをさせていただいた。
お話をうかがったお話を伺った福岡県市町村振興局政策支援課・宮嵜敬介地域政策監(左)と、同課・池田恭さん。
――国も含め、行政による伝統行事支援というと補助・助成金による支援が多く、「地域伝統文化お助け隊」のように人的支援に取り組むのは全国的にも珍しい取り組みです。始まった経緯について伺いたいです。
近年、新型コロナウイルスの蔓延、高齢化、若者の流出、コミュニティ意識の希薄化などで祭りの継続が難しいという声をよく聞くようになりました。そこで伝統行事を継続的に実施できるよう、2023(令和5)年度の8月に事業を開始しました。
私たち企画・地域振興部は、地域の活性化を目指して事業を行っています。伝統行事が衰退することは、地域の衰退にもつながりかねません。こうした観点から、私たちとしては、お祭りへの参加をきっかけにその地域に興味を持っていただき、継続的にその場所を訪れていただくきっかけになればと願っています。
――「お助け隊」事務局では、お助け隊員の派遣までにどのようなお仕事をしているのか、運営の流れを教えてください。
大分八幡宮の御神輿を運ぶ様子
まず、お助け隊の派遣を希望する祭りの募集という面では、年度はじめに市町村向けの説明会を開いています。そして、お祭りの担い手を募集したいという祭り主催者などからの声が上がってきたら、行事が実施される市町村を通じて派遣要請をしてもらう流れになっています。今回の大分八幡宮の件については、飯塚市から要請があって募集を掲載しました。
一方、「お助け隊」参加希望者は、報道などで取り上げていただいたこともあって、2024年10月現在、約282人の方が登録してくださっています。
登録されている隊員の方々には、新規案件の募集があれば、一斉メールが送られる仕組みになっています。応募いただいたら、要請のあった市町村職員が、電話等で直接応募者に祭りの詳細や参加の同意確認を行います。
祭りによっては、始まりや終わりの時間がはっきりしない場合もあるのですが、参加者目線に立って、入り時間と終わり時間をはっきりさせるということは意識しています。
今年10月までに派遣したお祭り11件、派遣実績40人
――掲載した募集にはどれくらい応募があるのでしょうか?
2023(令和5)年度は5件、2024(令和6)年度で10件の募集掲載をしました(2024年10月31日時点)。お助け隊として参加していただいた人数は合計40人になります。
当初は事前練習が必要な神楽の舞い手、あるいは動画の撮影・編集といった専門性が必要なお手伝いもあり、なかなか人が集まりませんでした。また、休日のお祭りには人が集まりやすいですが、平日や夜にかかるような行事は人が集まりにくいですね。支援の内容を具体的にお知らせいただいている行事参加が多いように思います。
4件目の掲載になった2024年1月の熊野神社「鬼の修正会(しゅじょうえ)」で大松明の担ぎ手として初めてお助け隊を派遣してからは、その様子がテレビや新聞などでよく報道されたこともあって認知度が上がり、ありがたいことに隊員の登録者が増え、要請のあった行事にお助け隊を派遣することができるようになりました。傾向としては、神輿の担ぎ手など祭り・行事の中心に関わることができるものが比較的人が集まりやすく、参加者にもやりがいを感じていただいているようです。
――昨日の大分八幡宮放生会では、お隣の熊本県からの参加者もいらっしゃいましたが、どのような方がお助け隊に登録・参加されているのでしょうか。
そうですね、計画時には参加者属性として20〜30代を想定していましたが、これまでの実績から見ると、比較的時間に余裕があると思われる40〜50代の方の応募が多いです。在住地域としては、やはり県内の方が多いですね。県外では、大阪から参加してくださった方がいました。その方は仕事で福岡に来ていて、「自由な日があったので参加しました」とのことでした。リピーターの方もいらっしゃいます。
長期的視点で、関係人口増加のきっかけに
祭り後の大分八幡宮の様子
――受け入れた地域の方や、参加者の感想などはいかがですか?
参加者からは「お祭りに参加しないと見えない景色がある」「今まで観客としてしか見られていなかったけど参加して充実感が得られた」「参加することが地域の一助になるので、次も参加したい」といった声がありました。また、「地域に貢献したいという想いを持っていても、お祭りの入り口がわからない」という声もあり、そのような人の窓口になっているようです。
また、受け入れ側からは「派遣してよかった」という声をいただいております。お祭りのために20人欲しいという要請に20人を派遣できるところまではまだ難しいのですが、最初は少しずつの人数でも長い視点で見て地域で受け入れていただいて、関係人口が少しずつ広がっていくといいなと思います。
――最後に、お助け隊の活動の展望などお聞かせください。
制度を始めて1年経ちました。おかげさまで、多くの方に関心を持っていただいて、他県からの問い合わせも受けています。
これまで、市町村単位では、祭りの際に人手の相互協力などの取り組みを行っている団体もあったのですが、私たち県の事業として行うメリットは、遠方から人が来るような広域的な人的支援ができる点だと思います。
徐々に参加者も増えてきている状況ですので、引き続き県内市町村への呼びかけと合わせ、年齢層や性別を問わずに参加を呼びかけていきたいです。お助け隊の活動をきっかけに地域との縁が生まれることで、継続的な交流を育み、地域の活性化へと繋げていきたいと思っています。
――本日はありがとうございました。
まとめ
とても充実した体験とインタビューとなった。大分八幡宮放生会の主催者の皆さん、そして福岡県庁の皆さんに心から感謝したい。
全国的に見れば、地域の方々が知らないうちに、祭りが開催できない状況になってしまう、いわば〝祭りの突然死〟も起こっている中で、県が積極的に市町村・祭り主催者に対して定期的、継続的にコンタクトし、課題や悩みを吸い上げる仕組みがあることが重要なことだと思った。
また、お助け隊を受け入れるお祭り側にとっても、自分たちの祭りを、自分たちだけでなく、より広い意味での「地域」で支えていく方法があるのだということは大変心強いと思う。県単位で行っている規模感も、このマッチングがうまくいっているポイントかもしれない。
私もお助け隊に参加して感じたが、祭りは、地域の方々と顔の見える関係を築くのにとても良いきっかけになる。出会った人の顔が思い浮かぶから、その地域をもっと知りたくなる。また訪れたくなる。こうした積み重ねで関係人口が創出されるのだと思う。
伝統行事お助け隊に参加したい方や、この制度についてもっと知りたいという行政の方などは、ぜひ「地域伝統行事お助け隊」ホームページを訪問していただきたい。