光の力でだけ動く不思議な歯車が開発される / Credit:Gan Wang . arXiv (2024)
中に小さなマウスが入っているわけではありません。
スウェーデンのヨーテボリ大学(GU)は光をあてると回転する微小な歯車を開発。
この装置は歯車自体が回転するため、モーターのような動力部は必要ありません。
研究者たちはこの歯車の仕組みを使うことで、限界を超えた機械の小型化が実現できると述べています。
しかし、いったいどんな仕組みが光を回転力に変えているのでしょうか?
研究内容の詳細は2024年9月25日にプレプリントサーバーである『arXiv』にて公開されました。
目次
光の力で回転する歯車メカニズム:風の代りに光を受けて回転する歯車光の回転で歯車を制御する
光の力で回転する歯車
光の力でだけ動く不思議な歯車が開発される / Credit:Gan Wang . arXiv (2024)
歯車はあらゆる機械の中核的な部品です。
その起源は古く、最古の歯車は紀元前150~100年に制作された「アンティキティラ島の機械」と呼ばれる天体の動きを調べる計算機の一部だったと言われています。
現代においても歯車はあらゆる機械に使用されており、ミニ四駆や時計などでも、モーターやゼンマイの力をタイヤや針に伝達するための手段として、歯車が中心的な役割を果たしています。
人類の暮らしを大きく変えた産業革命が成し遂げられたのも、歯車の仕組みがあったからだと言えるでしょう。
しかし機械の小型化が進みマイクロメートルからナノメートルに達すると、限界がみえてきました。
微小な機械に組み込まれた歯車を動かすには、マイクロモーターのような極めて小型化された動力も必要です。
歯車の小型化は比較的簡単ですが、複数の部品を必要とする「モーター」をマイクロサイズにするのは非常に困難だったからです。
また既存の歯車を使った仕組みでは、動力を始点(最初の歯車)から終点(最後の歯車)へ伝達させることは得意でも、間に存在する個々の歯車を独立的に動かすのは困難でした。
この限界を突破するには、歯車とモーターの役割を一体化させ、エネルギーを注入された歯車自体が回転力を生み出せるような仕組みが不可欠です。
「そんなのは無理だ」と思われるかもしれませんが、そうでもありません。
たとえば歯車の形を工夫して風車のように外部からのエネルギーを直接回転力に変換する仕組みを作れば、始点となる歯車自身が回転力を発揮することが可能です。
(※風力発電では向かってくる風を、風車を使って横方向の回転力に変換しています)
ただマイクロサイズの世界では、風力はあまりアテにできません。
風力は方向のコントロールが難しく、すぐに分散してしまうからです。
そこで今回、ヨーテボリ大学の研究者たちは「風の代りに光を受けて回転する歯車」を作ることにしました。
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メカニズム:風の代りに光を受けて回転する歯車
風の代りに光を受けて回転する歯車 / Credit:Gan Wang . arXiv (2024)
「風の代りに光を受けて回転する歯車」
このアイディアを実現するため研究者たちはまず、風車の羽にあたる部分を作りました。
風車の場合、正面からくる風を羽が特定の方向に偏向させて受け流すことで、回転力に変換します。
一方で光を受けて回転する歯車の場合は、正面からくる光を特定の方向に変化させる仕組みを備えていました。
実験では、この傾きを生み出すために特殊なシリコン(アモルファスシリコン)が使用されました。
光を右に排出しその圧力で左回転する / Credit:Gan Wang . arXiv (2024)
たとえば上の図では、上から降り注ぐ光がアモルファスシリコンによって偏向して右方向へ排出される様子が描かれています。
このときアモルファスシリコン部分では反作用によって左側に押されることになります。
光は質量を持ちませんが、エネルギーと運動量をもつために、物体に対して押す力を発揮できるのです。
光が上から降り注ぎ左回転を始めるイメージ / Credit:Gan Wang . arXiv (2024)
風車の羽の場合は風の方向を傾かせることで力を得ますが、この歯車の場合は光の方向傾かせることで力をうみだすと言えるでしょう。
実験では歯車の表面を4等分し、それぞれの区画に光を一定方向に偏向させるガラスが配置されました。
白い矢印は各羽部分が光を受けて押される方向(反作用の方向)を示しています。
研究では最大6個の歯車まで力の電動が試された / Credit:Gan Wang . arXiv (2024)
準備が整うと、研究者たちは歯車に対して上から光を浴びせます。
(※歯車部分の大きさは直径8~16μmとなっています)
すると予想通り、光を受けた歯車は左方向に回転することが明らかになりました。
また光を受ける歯車に対して別の歯車を組合わせたところ、最大で6つの歯車を連結させて動きを伝達できることが示されました。
この結果は、光の力を使うことで歯車自体を駆動させられることを示しています。
ですが今回の研究はこれで終わりではありません。
研究者たちは光を調節することで歯車の回転方向を自由自在に操る方法も開発したのです。