〈年収103万円の壁撤廃か〉減税につながる玉木雄一郎案と増税につながる小泉進次郎案、国民に優しいのはどっち? 「進次郎案は “国民を虐める”タイプの“壁対策”では…」

“103万円の壁”の引き上げについての議論が始まっている。国民民主党の玉木雄一郎代表が強く押し出しているこの案だが、果たしてどこまで実現されるのだろうか。

年収の壁を撤廃するべき理由

年収103万円を超えると所得税がかかり始めることから、世間では“103万円の壁”と呼ばれてきた。ただ、この壁を超えたからといって、損をするかと言われれば、ひとえには言い切れない。

103万円を超えると、超えた分にだけ所得税が課税されるため、例えば104万円稼いだとしたら、103万円はそのまま無課税、超えた1万円分にだけ課税される仕組みだ。

ではなぜ、世間では“103万円の壁”と呼ばれ、このラインを超えないように年収を調整している人が多いのか。それは、扶養対象から外れてしまうからだ。

親やパートナーなどの扶養に入っている人は、103万円を超えるとそこから外れてしまう。すると、親やパートナーが扶養控除を受けることができなくなり、払う税金がアップ。結果的に、103万円以上稼いでも、“世帯全体”の手取りが減ってしまうことがあるのだ。ほかにも、106万円や130万円など、年収の段階に応じて、国民年金保険料や国民健康保険料を支払う必要が生じてくる。

そのため現在、この“103万円の壁”のせいで、パートする主婦や学生アルバイトの人たちは調整をしながらシフトを組んで働いている。

今年の7月25日には、厚生労働省の審議会で最低賃金が全国平均で50円を目安に引き上げられる方針で合意したものの、最低賃金を上げても“103万円の壁”を動かさない限りは何も意味がないとの声が続出する事態となった。

国内で働き手が減り、外国人労働者に頼るしかなくなっている現状も、賃金が上がる一方で、“103万円の壁”を撤廃しないからではないかとの指摘も寄せられており、この壁をめぐっては長年議論され続けてきた。

“103万円の壁”ができたのは1995年。以来29年、変わっていない。その間、最低賃金は1.73倍になっていることから、国民民主党は、103万円の壁も1.73倍の、178万円にするべきだと主張しているわけだ。

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“国民を虐める”タイプの壁対策とは?

今回の衆議院選挙で過半数割れとなった自民党は、議席を大きく伸ばした国民民主党に協力をあおぐため、国民民主党と同じく、“103万円の壁”を見直す方向で議論を進めている。

そして実は自民党も、今年9月に小泉進次郎氏が“103万円の壁”を撤廃するべきだと論じていた。

こう聞くと、すんなりと話し合いは進みそうに感じるが、実は“103万円の壁”を見直すと一言で言っても、玉木氏の方法と、進次郎氏の考える方法では正反対の効果を及ぼすという。玉木氏の案は実質的な減税となるが、進次郎氏の案では増税になると指摘するのは、京都大学大学院教授の藤井聡氏だ。

「なぜ、同じ『年収の壁』撤廃論でも増税提案もあれば減税提案もあるのかといえば、そもそも『年収の壁』とは、特定の年収水準以下の労働者は『所得税』の支払いや『保険料』の支払いが『免除』されています。

だけど、その水準を1円でも超える年収の労働者の場合には、そうした『免除』がなく、『所得税』や『保険料』の支払いが必要になる、という仕組みのことです。

この仕組みは、低所得者層(ならびに低所得の扶養されている人々)に対する 『生活支援・生活保護』の視点から導入されているものです。したがって、年収の壁を撤廃するためには、この『税金や保険料の支払い免除』という仕組みをなくすという方法と、より保護対象を拡大する2つの方法が存在することになるのです」(藤井聡氏、以下同)

前者の方法を掲げているのは進次郎氏。この方法は、これまで税金や保険料の支払いを免除されてきた低所得者層が大きな負担を負うことになる。「“国民を虐める”タイプの『増税』型壁対策です」と藤井氏は指摘する。

後者の方法を掲げているのは玉木氏。「免除の対象者を103万円以下から、178万円以下へと拡大する」と、保護対象を拡大すると主張しているので、“国民に優しい”タイプの「減税」型壁対策といえるのだ。

さらに、この案は「年収の壁」以上の所得がある中高所得者層についても、減税効果を持つことになる。まさに、玉木氏が常々主張している「手取りを増やす」に繋がるといえよう。