バウアーバードのオスは、コンサート会場が立派なほどメスに人気が出る / Credit: iStock
メスへの求愛のために巣を作ってアピールする鳥がいる、という話を聞いたことのある人は多いでしょう。
しかし、ここでアピールしているのは巣の外観だけではなかったようです。
オーストラリアのディーキン大学(Deakin University)のエンドラー(Endler)氏らの研究チームは、オーストラリアを主な棲息地とするバウアーバードのオスが、求愛に用いる巣は自らの歌声の魅力も増すように音響効果まで考慮して建設していることが判明しました。
この音響効果を含めて上手く建設できるオスほど、メスにモテるのだという。
アイドルやアーティストのコンサートでは、会場の音響についても気にするファンはいますが、歌声の美しい鳥も同様にそこまで気にしていたようです。
研究内容の詳細は2024年9月7日に『Behavior Ecology』にて掲載されました。
目次
自分の魅力を伝えるためのコンサート音響効果まで気にして建設していた
自分の魅力を伝えるためのコンサート
https://www.istockphoto.com/jp / Credit: iStock
昨今よく耳にする「推し活」。今や国民の4人に1人が「推し活」をしていると言われているほど、世の中に浸透しています。
「推し」という言葉は、特定のアイドルやアーティストを、人にすすめたいほど気に入っていることを指し、それらをファンとして応援する活動を「推し活」と言います。
「推し」に直接会える場所として一般的なのが、コンサートです。
ファンを集めて自身の楽器の演奏や歌を披露するコンサートは、アーティストが自分の魅力を表現し、ファンへの愛を伝える空間です。
自分の魅力をアピールする手段としてコンサートを開催するのは、ヒトだけではなかったようです。
バウアーバードのオスは繁殖のためにコンサート会場を建設する / Credit: iStock
オーストラリアを主な生息地とするバウアーバードのオスは、繁殖時にメスに自分の魅力をアピールするため、草や小枝などでできた特徴的なバウアー(小屋)を建設することで知られています。
巣作りでアピールすると表現されることもありますが、これは求愛のためだけに建設される展示ホールのような建物です。
オスのバウアーバードは、性成熟するまでの間、オス同士でバウアーを見せ合ったり、仲間同士で物を盗む練習をして、効果的なバウアーを建設する練習をします。
性成熟を迎え、繁殖のタイミングになると、オスはパフォーマンスを行うための自分のバウアーを建設します。
バウアー内の通り道は、石、骨、カタツムリの殻、ガラスや金属などでデコレーションされており、この道の奥で、オスはメスの到着を待ちます。
メスがバウアーの近くに到着すると、オスはショーを始めるために声をあげます。
メスがバウアー内に入ったことをオスが確認すると、オスはバウアーを装飾していた色のついた飾りを拾い上げ、それらを振ったり、投げてバウアーの装飾にぶつけて音を出します。
さらに、歌を歌ってメスにアピールを行い、成功するとカップルが成立します。
パフォーマンスを行い、カップルが成立するまでの間、オスがメスの前に完全に姿を見せることはありません。
つまりバウアーバードのオスは、パフォーマンスを行う会場を自分で建設し、アーティストのコンサートさながらに、歌とダンスを行うことで、メスに自分の魅力をアピールするのです。
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音響効果まで気にして建設していた
コンサート会場の建設が上手いオスはモテる / Credit: iStock
バウアーにメスが滞在する時間が長いほど、繁殖の成功率が高いことが分かっています。
バウアーバードが建設するバウアーは、彼らのパフォーマンスにどのように役立っているのでしょうか。
エンドラーらのグループは、バウアーの構造とその中の装飾が、オスのパフォーマンスに影響しているのではないかと考え、バウアー内にマイクを設置し、オスがパフォーマンスを行っているときのバウアー内の音の周波数測定を行いました。
その結果、バウアーの構造や飾りつけは、音の周波数領域を変化させ、特定の音域を増強させていることが明らかになりました。
このことからモテるオスは、バウアーの音響的な部分まで気にして、自分の歌やダンスをより魅力的にみせることができるよう建設していると考えられます。
さらに、バウアーの装飾や音響効果をうまく使うことで、オスは求愛のパフォーマンスに費やす過剰なエネルギー消費を減らし、力をセーブしている可能性もあるという。
今回の研究結果は、ヒトがコンサートホールを建設するときと同様に、歌声で魅力をアピールする鳥たちは会場の音響まで気にすることを示しています。
バウアーバードは、このバウアーの飾りつけに非常に気を使っていて、様々な色の花や果実、石、羽根を用いて視覚的に美しく飾りますが、視覚的なディスプレイだけでなく、音響を含めて気を使うということは、生物にとってこれらの機能が想像よりも広く備わっている可能性を示唆しています。
こうした求愛の手段をより詳細に調べることで、生物の感覚が進化の過程でどのように変化してきたかを理解することにつながるかもしれません。
参考文献
Male bowerbirds build acoustics into their love shrines
https://www.science.org/content/article/male-bowerbirds-build-acoustics-their-love-shrines
元論文
Acoustic effects complement visual displays of Great Bowerbird bowers
https://doi.org/10.1093/beheco/arae070
ライター
高橋 実可子: 大学では農学を専攻し、産業動物の研究をしていました。
現在は医療系の企業でメディカルライターとして働いています。
動物が好きで、猫3匹、小鳥1匹と生活しています。
生き物の身体の仕組み、感情や行動の変化に興味があり、本サイトでは医療と生物の記事を担当します。
編集者
ナゾロジー 編集部