日本のメカデザイナーにほれ込んだアメリカのメカデザイナーも参加して生まれた『G-SAVIOUR』のモビルスーツたち。



「1/144 G-SAVIOUR SPACE」(BANDAI SPIRITS)

【画像】えっ、カッコいい! こちらが「ハリウッド実写版ガンダム」に登場するMSです

シャープさと力強さ、落ち着きが同居したメカ

「ガンダム」の名前を冠するロボットは数々ありますが、そんななかにも「ガンダム」とは呼ばれないものがあります。ゲームを通して知る方が多い「G-SAVIOUR」もそのひとつです。

 1999年に、サンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)が制作総指揮、アメリカ・ハリウッドの映画制作会社「ポールスター」(現在は解散)で制作した、ガンダム20周年記念スペシャル番組『G-SAVIOUR』の主人公機体です。

 あのモビルスーツは、どこから見てもガンダムなのですが、その名称にガンダムの文字はありません。

 理由は、この作品が、あくまでもアメリカで「意匠」(形やデザインなど)を登録させることを目的のひとつとして作られたものであるからです(詳しくは、当サイトに掲載した筆者による記事「『ハリウッド版実写ガンダム』の知られざる舞台裏 困難極めた制作…富野監督が送ったエールとは」をどうぞ)

 まだまだ3DCGの黎明期の作品ではありますが、TVスペシャルの予算で、完全実写で作り上げたモビルスーツドラマの価値は、決して低いものではないでしょう。

 そんな『G-SAVIOUR』ですが、この物語には、主人公が搭乗するG-SAVIOUR以外にもいくつかのモビルスーツが登場します。

 G-SAVIOURをデザインしたのは、ガンダムをデザインしたことでも有名な大河原邦男さんですが、そこに新たなデザインとブラッシュアップを加えたのが、惜しくも2年前に他界された鈴木雅久氏という当時若手のデザイナーでした。

 このころは、まだまだ「知る人ぞ知る」鈴木氏でしたが、元々が有名漫画家のアシスタントだった彼は、大変シャープで未来的なメカをデザイン出来るデザイナーとして、数々のサンライズ作品にも裏方として参加しており、彼がリライトしたG-SAVIOURそのものを大河原さんも高く評価されています。

 当作品のモビルスーツのデザインには、アメリカの若手デザイナー、ケビン・イシオカ氏も参加していますが、日本側の担当プロデューサーがロサンゼルスのオフィスで初めて彼に会ったときの印象的なエピソードがあります。

 もちろんケビン氏はガンダムのこともモビルスーツのこともよく知っていました。そんな彼が1冊の本を取り出します。

「この本は僕のメカデザインのバイブルなんだ」



2000年にTV放映された『G-SAVIOUR』フルバージョンDVD(バンダイナムコアーツ)

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米デザイナーがリスペクトした、日本のクリエイターとは

 そういって見せてくれたのは、なんと、鈴木氏が描いたデザイン画がずらりと並んでいる『巡航追撃機ブラスティー』という、パソコンゲームを発展させてサンライズの企画室が模型誌で展開、連載していた作品のスペシャル本だったのです。

「こっち(L.A.)のKINOKUNIYAで見つけたんだ。こんな素敵なデザインがあるんだと知ってショックをうけたよ」

 ケビン氏はうれしそうにそういってくれました。

 予想外のことに、実はこの本もプロデュースしていたプロデューサーはびっくり。このスペシャル本自体がかなりマニアックなものでしたし、それをアメリカのデザイナーが手に入れて手本としていたのですから。

 そんな彼がデザインしたのが、敵モビルスーツの「MSレイ(MWレイ)」と、深海潜水艇への可変機能を持つモビルスーツ「グッピー」です。

 もう1体の敵モビルスーツ「ブグ」は大河原さんのデザイン。本編に先立ち、同じCGスタジオで作られたパイロットフィルム時にG-SAVIOURと一緒に出来上がったデータが、そのまま本編内に使用されています。

 ちなみに、この「ブグ」という名前は、パイロットフィルムのスーパーバイザーとしてモビルスーツの動きなどをアメリカ側に指導した『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』の監督等でも著名な今西隆志氏が付けたもの。後に同じ名前のモビルスーツが別の作品に登場したようですが、G-SAVIOURの制作時に商標が確保されながらも商品化されなかった名称なのです。

 ブグももちろん、鈴木氏のファンだったケビン氏がデザインしたMSレイもグッピーも、とても魅力的なモビルスーツなので、立体化されるといいなぁと、私は今も思っているのですけれど。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
2017年から、認定NPO法人・アニメ、特撮アーカイブ機構『ATAC』研究員として、アニメーションのアーカイブ活動にも参加中。