「ガンダム」シリーズでは少年少女がフツーにMSの操縦席へ座っていますが、現実の戦闘機などではまずありえない光景でしょう。ところが現代の戦闘機は、動かすだけなら誰でも動かせるといいます。そのあたり実際、どうなのでしょうか。



表紙に名前のある人物のほとんどが10代でMSパイロットとして戦場に立っている。「機動戦士ガンダム ニュータイプ伝説ぴあ」(ぴあ)

【画像】ピタピタのパイロットスーツが…こちらいろいろとけしからん「ガンダム」シリーズの美しきパイロットたちです(15枚)

「操縦」は簡単でも「戦う」のは別のお話

「ガンダム」シリーズでは、少年少女たちがモビルスーツを、まるで手足を操るように華麗に操縦し、戦いを繰り広げる姿が描かれます。

 しかし、現実の世界で、果たして子供たちが戦闘機を駆って戦うことはできるのでしょうか。そして、プロのパイロットになるためには、どれほどの年月と努力が必要なのでしょうか。

「ガンダム」の世界では、主人公たちはあっという間にモビルスーツの操縦を習得し戦場へと駆り出されます。「カミーユ・ビダン」や「バナージ・リンクス」のように、非戦闘用ながらモビルスーツの操縦を事前に習得済みの者も少なからず存在しているほか、「一年戦争」中は正規の軍人でさえ数か月の訓練で実戦投入されていることを考えると、モビルスーツの操縦はひょっとしたら我々が想像するよりも遥かに敷居が低いのかもしれません。

 実は現代戦闘機においても、操縦だけなら少年少女でも自由に飛行することが可能だろうといえます。筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)自身、F-35戦闘機のシミュレーターを体験した経験があり、初めてであったにも関わらず空対空ミサイルの発射と垂直離着陸を成功させました。ボタンをいくつかクリックするだけ、と非常に簡単だったので、実際だれでも十分、同じことができたに違いありません。

 以上のように現代戦闘機は動かすだけならば簡単なので、何度かシミュレーターで訓練すれば誰でも動かすことそのものは可能であると考えられます。ただしシミュレーターでは加速度(G)もかかりませんし、危険な状態に陥ることもありませんから、現実の戦闘機パイロットには安全に飛ばすためのあらゆる事態に対処する能力を得るために、長い訓練が必要となります。もちろん戦闘技能も必要です。

 航空自衛隊を例に見てみましょう。もっとも若くパイロットになれるコース「航空学生」では、高校卒業後18歳で入隊し、2年間、自衛官としての基礎的な知識や体力を養います。そして3年目、半年間の座学ののち、いよいよパイロットとしての訓練が始まります。

 1年半をかけてプロペラ初等練習機T-7、次いでジェット練習機T-4で訓練飛行を行い、その後ようやく複座戦闘機(F-15DJやF-2Bなど)へ機種転換します。実戦部隊に配備されるまではさらに1年間、戦闘機の操縦を学びます。

 つまり、航空自衛隊の実戦部隊のパイロットになるためには、最短でも5年かかり23歳が最年少となります。しかしこの時点ではまだ最低限、戦闘機を操縦できるだけの能力しかありません。実戦(スクランブル待機)任務をこなすには、そこから1年の訓練が必要であり、入隊より7年から8年が経過し総飛行時間が1000時間に達すると「一線(一千)を超えた」プロのパイロットとしてみなされるようになります。

 また現役パイロットとして技量を維持するためには、年間約200飛行時間が必要です。1飛行時間あたりの必要経費がおよそ200万円程度なので、ひとりのパイロットを養うには年間4億円の経費が必要です。

 もし、戦闘用のモビルスーツが実在し実戦配備されているとしたら、そのパイロットの育成には、航空自衛隊のパイロット育成と同等に近い時間と手間がかかるかもしれません。