NHK杯で日本女子が成し遂げた16年ぶり表彰台独占。世界女王が「相乗効果」と語る日本フィギュア厚い選手層ゆえの“競争争い”

 日本女子が圧倒的な強さを見せつけた。

 11月9日、フィギュアスケートのグランプリ(GP)シリーズ第4戦NHK杯は女子フリーが行なわれ、ショートで今季世界最高得点を叩き出し首位で好スタートを切った坂本花織がフリー152.95点、合計231.88点をマーク。またも今季最高得点を挙げ、3年ぶり3度目の優勝を決めた。他の日本勢では千葉百音が合計212.54点で2位、青木祐奈が195.07点で3位に入り、表彰台を日の丸が独占した。

「『え、すっごくない!?』って思って。びっくり。こんな嬉しいことないから!」

 激闘後、世界女王は興奮気味に壮観な光景だった表彰台の景色をそう振り返った。それだけ価値あるパフォーマンスを日本女子が示した。しかも、これが今季2度目だから尚更だ。

 まずはショート3位で折り返した22歳の青木が素晴らしい先陣を切った。冒頭から難しいコンビネーションの3回転ルッツ+3回転ループを降りて弾みをつけると、フリーを優雅に舞った。演技後は顔をくしゃくしゃにしながら感情が溢れ、万雷のスタンディングオベーションに感謝しながら手を振って応えた。得点が発表されて初の表彰台が確定すると、一気に涙がこぼれ顔を抑えた。

 後半はジャンプに回転不足やダウングレードがつくなど、反省点も忘れなかったが「去年に引退を考えて臨んだNHK杯で見た景色(5位)から現役続行と決めたので、さらに順位を上げて自分の納得できた演技で終われたのは1年間よく頑張って来たなと褒めてあげたいし、それをさらに自信につなげていきたいなと思います」と振り返りながら、「あの景色と気持ち良さは忘れられない」と感慨に浸った。
  情熱の赤い衣装を身にまとった千葉も続いた。わずかな回転不足はあったが、すべてのジャンプを着氷。流麗なスケーティングでプログラムの世界観を表現しながら伸びやかに滑り終えると、リンクサイドで見守った濱田美栄コーチは飛び跳ねて喜んだ。昨年の全日本選手権で2位に入り、四大陸選手権で初優勝を飾るなど大きく飛躍を遂げた19歳がフリー、合計でともに自己ベストを大きく更新。初出場での表彰台には、「こみ上げるほどの嬉しさはないけど、今日はノーミスでできた自分を褒めたい」と笑顔を見せた。

 そして日本の表彰台独占にリーチがかかり、大きなプレッシャーがかかるなか世界女王が大トリで登場する。緊張感が漂う最終滑走でありながら、坂本はジャンプをほぼ完璧に成功し、圧巻のノーミス演技を披露。息もつかせぬ迫力ある演技構成で進み、米ミュージカルの代表作『シカゴ』の世界観を表現しながら観衆を魅了する。最後はズバッと決めポーズでフィニッシュ…だったが体がよろめき、カッコよく決まらず。本人も苦笑いしながら悔しむ素振りを見せたが、他を寄せ付けぬ盤石の演技に会場は大歓声を送った。

 キスクラで驚異の150点超えを確認すると、「うわー!」と驚きのリアクションも弾ける笑顔で喜びのガッツポーズを繰り出した坂本。GP2連勝を収め、2季連続のファイナル(12月・フランス)進出を確定させた。 NHK杯で日本勢が表彰台を占めるのは、2008年以来(1位=浅田真央、2位=鈴木明子、3位=中野友加里)。今季のGPシリーズでは第2戦のカナダ大会で坂本、松生理乃、吉田陽菜が16年ぶりに表彰台独占を実現し、海外メディアを驚かせた。破竹の勢いを見せる日本勢に坂本は「今年の日本はすごいな」と白い歯をこぼし、そのパフォーマンスに感嘆する。今季ここまでGP4戦の表彰台のうち、実に10選手を日本勢が占めている事実には、「もうすごくない!? 大会前に9分の7ってあって、今季の日本はすごい。12月の全日本選手権が恐ろしいです」と驚きを口にし、今シーズン無類の強さを次のように分析した。

「今は一人ひとりがジュニアの子もだけど、自分からいろんなことに取り組んでいる。氷上だけじゃなくて、陸上でのトレーニングや、生活をスケートに捧げている意識の高い選手が本当に多い。自分も見習わないといけないと思う部分もたくさんある。それが相乗効果になっているのかな」
  2006年にトリノ五輪で荒川静香がアジア人初の五輪金メダルに輝くと、10年バンクーバー五輪では浅田真央が銀メダルを獲得。世界を代表するトップスケーターを輩出した。そして坂本自身も22年北京五輪で銅メダルを手にし、今では世界選手権3連覇中と女子シングルをけん引している立場だが、下の世代では世界ジュニア選手権2連覇の島田麻央(15歳)、昨年の全日本で初出場4位と躍進した上薗恋奈(14歳)、トリプルアクセルを武器にする中井亜美(16歳)ら有望なジュニア世代が台頭している。坂本本人も指摘するように、ジュニア世代を含めた国内での激しい競争争いが各選手の相乗効果に確かにつながっているのかもしれない。

 2026年ミラノ五輪のプレシーズンということもあり重要な意味を持つ今季、フィギュア大国として日本勢の層の厚さをあらためて世界にアピールするカタチとなった。

取材・文●湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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