海洋微生物がもたらす未来
海洋微生物が作り出す驚くべき新しい薬の可能性については、抗菌剤、抗ウイルス剤、さらには抗がん剤としての利用が期待され、未来の医療を変える力を秘めています。
しかし、これだけではありません。
海洋微生物は、「天然の抗菌物質」として広い用途を持っています。
海洋中のバイオフィルムは、細菌や藻類、真菌などの微生物が集まって作る薄い膜のようなものです。
これらはまるでミニチュア版の生態系のように働き、海洋生物の一部として重要な役割を果たしています。
しかし、海水パイプや船底にこのバイオフィルムが付着すると、エネルギー効率が悪化し、設備の寿命が縮まることがあります。
さらに、バイオフィルムには病原性の微生物も含まれているため、それが広がると健康リスクも増加します。
現在のバイオフィルム対策としては、物理的な除去や化学的なコーティング剤が一般的に使われていますが、これらの方法は環境に悪影響を及ぼすこともあります。
例えば、有機スズや酸化銅といった化学薬品はバイオフィルムの発生を抑制しますが、同時に海洋生態系に悪影響を与えるリスクも持っています。
そこで、注目されているのが「天然の抗菌物質」です。
これは海洋微生物が自身の代謝活動を通じて生成するもので、環境に優しく、低毒性かつ生分解性があるため、従来の化学薬品に代わる新たな選択肢として期待されています。
海洋微生物から得られる化合物は、将来的に私たちの生活や医療の現場で重要な役割を果たすことが期待されています。
特に、抗生物質の耐性や新興ウイルス、がんなどの難治性疾患に対しては、新たな治療オプションが提供されるでしょう。
地球上には、私たちがまだ知らない役に立つ物質がたくさん潜んでいます。
自然界から得られる新薬の開発に大いに期待しましょう。
参考文献
慶應大学、(財)がん研究会、東京大学および弘前大学プレスリリース
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2022/6/13/220613-1.pdf
元論文
Study of marine microorganism metabolites : new resources for bioactive natural products
https://doi.org/10.3389/fmicb.2023.1285902
ライター
鎌田信也: 大学院では海洋物理を専攻し、その後プラントの基本設計、熱流動解析等に携わってきました。自然科学から工業、医療関係まで広くアンテナを張って身近で役に立つ情報を発信していきます。
編集者
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。
大学で研究生活を送ること10年と少し。
小説家としての活動履歴あり。
専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。
日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。
夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。