ストレッチは多用な効果が得られる / Credit: Canva

皆さんはストレッチをしていますか?

ストレッチは、有酸素運動や筋トレと同じく、ポピュラーなエクササイズですが、運動やスポーツの前に何となくやっているぐらいで、その効果をはっきりと認識していない人も多いのではないでしょうか?

実際、これまでの研究を見ると、有酸素運動や筋トレに比べてストレッチの健康効果はよく分かっていませんでしたが、近年の研究によって、ストレッチを続けると意外な効果があることも分かってきました。

本記事では、スタティックストレッチ(静的ストレッチ)と呼ばれる、反動や弾みをつけずに身体をゆっくりと伸ばし、その状態をキープするエクササイズの効果を説明します。

目次

柔軟性と死亡リスクとの関係せっかちな人には効果がないストレッチ

柔軟性と死亡リスクとの関係

まず、ストレッチでイメージしやすいのが、柔軟性が高まるというものです。

ここでの柔軟性とは、関節可動域のことで、関節が無理なく動ける範囲のことをいいます。

ただ、関節可動域が広がれば良いとは必ずしも言えず、怪我予防に繋がらないケースや、スポーツ前のウォームアップとして実施しても、むしろパフォーマンスが下がってしまう場合があることも指摘されています。


走る前などに行われているストレッチだが、怪我予防やパフォーマンスを高める効果があるとは限らない / Credit: 写真AC

また、健康面から見ても、有酸素運動や筋トレを続けると、病気になりにくい、早死にしにくいなどの効果があるのに対し、柔軟性を高めても、そのようなメリットがあるのかはよく分かっていませんでした。

このような実情を踏まえ、最近、ブラジルのクリニメックスー運動医学クリニックに所属するクラウディオ・ジル・アラウホ博士らの研究グループは、46~65歳の約3000人を対象として、全身の関節可動域を計測した上で、約13年間にわたり生存状況を追跡しました。

その結果、年齢やBMI(体格指数)、健康状態といった結果に影響する要因を考慮しても、関節可動域が広い人に比べ、狭い人では死亡リスクが著しく高いことが分かりました(男性:1.87倍、女性:4.78倍)。

柔軟性と全死亡率との関係を初めて解き明かしたこの研究結果は、柔軟性を高めるエクササイズをすることも、健康に大切なことを示唆しています。

さらに、近年では、ストレッチもすることで、予想外の効果が得られることも分かっています。

次のページでは、ストレッチが筋力、筋肥大に及ぼす影響と、ストレッチの効果を得るための大切な視点を説明します。

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せっかちな人には効果がないストレッチ

2024年4月、『Sports Medicine-Open』という学術雑誌に興味深いメタ分析が発表されました。

その結果とは、それまでに発表された42の研究を集めて分析したところ、継続的にストレッチをすることで、筋力向上や筋肉が大きくなる効果が得られるというものです。

もちろん、その効果は筋トレの方が大きいと考えられるものの、ストレッチをするだけでも、筋肉に負荷がかかり、筋肉を構成する筋タンパク質の合成が促進されることも分かっています。

この筋タンパク質の合成は、筋肉の成長には不可欠なものです。

そんなストレッチですが、柔軟性を高めたり筋肉を成長させたりするためのコツは、継続的に実施することに加え、時間をかけることが鍵になります。

何となく1つの部位を10~15秒伸ばしたらOKと思いがちですが、ストレッチを継続することで柔軟性が高まったとする研究の多くは、1回で短くても30秒、長いものでは30分、1つの部位に対してストレッチをしています。

また、先ほど説明したストレッチによる筋力向上や筋肥大効果を明らかにしたメタ分析でも、効果を得るには、その部位に対して15分以上、週5回以上、6週間以上にわたりストレッチを実施するという、比較的高い努力が必要になると考察されています。

したがって、ただ何となくストレッチをするだけでは、柔軟性や筋力の向上、筋肥大といった効果を得るには不十分であり、時間と期間が不可欠であると言えます。

ストレッチは、筋トレや有酸素運動に比べるとカロリー消費が期待しにくいものの、逆の見方をすれば汗をかきにくいという特徴があります。

実際、ストレッチ愛好家の多くは、お風呂上がりや寝る直前に実施しているケースが多いのではないでしょうか。


リラックスタイムにストレッチをする際はしっかり時間をかけよう / Credit: 写真AC

もちろん、気持ちが安らぎ、リフレッシュできるといった効果を目的にしているのであれば、時間に拘らず、自分が満足できるレベルで行えば良いでしょう。

しかし、柔軟性や筋力を高める、筋肥大といった効果を得たい方は、時間と継続力が鍵です。

ということで、リラックスタイムにじっくりと時間をかけて行うことで、その効果を最大限に引き出してみてはいかがでしょうか。

参考文献

Want To Live Longer? Science Says To Stretch
https://scitechdaily.com/want-to-live-longer-science-says-to-stretch/

元論文

Reduced Body Flexibility Is Associated With Poor Survival in Middle-Aged Men and Women: A Prospective Cohort Study
https://doi.org/10.1111/sms.14708

Effects of Chronic Static Stretching on Maximal Strength and Muscle Hypertrophy: A Systematic Review and Meta-Analysis with Meta-Regression
https://doi.org/10.1186/s40798-024-00706-8

ライター

髙山史徳: 大学では健康行動科学、大学院では体育学・体育科学を専攻。持久系スポーツの研究者として約10年間活動。 ナゾロジーでは、スポーツや健康に関係する記事を執筆していきます。 価値観の多様性を重視し、多くの人が前向きになれる文章を目指しています。

編集者

ナゾロジー 編集部