アニメが原作を越えようとするのは無謀な試みでしょうか。原作ファンからの批判を恐れず、あえて原作どおりにアニメ化しないことで新境地を切り開こうとした作品を見ていきましょう。



『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』シーンカット (c)光プロ/ショウゲート/フェニックス・エンタテインメント

【画像】確かに「ニヤリ」だわ こちらが『ゴジラS.P』の「ジェットジャガー」(CV:釘宮理恵)です(12枚)

原作通りにつくれば良作になるとは限らない?

 原作付きアニメの扱いは大きく2種類に分けられます。ひとつは原作に忠実に作られたもの、もうひとつは原作からエッセンスだけを抽出し、アニメならではの改変を加えたものです。以下、特に大幅な原作改変が加えられ、話題となったロボアニメを3作、見ていきましょう。

『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』

 原作に大幅な改変が加えられたアニメといえば、1992年から1998年にかけて全7話がOVA(オリジナルビデオアニメーション)でリリースされた『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』は外せません。

 本作は1967年に横山光輝先生によって『週刊少年サンデー』で連載されていたマンガ『ジャイアントロボ』が原作です。同マンガは1968年にTVドラマ(特撮)化され、そちらも広く知られています。OVA版は「ジャイアントロボ」のデザインが重装甲でマッシブにアレンジされているなど、原作、TVドラマいずれとも全く異なるアレンジが施されていました。

 特筆すべきは、いわゆる「スターシステム」によって、横山光輝ワールドのキャラクターが多数、登場している点です。『バビル二世』の主人公「浩一」は敵対組織、BF団の首領「ビッグ・ファイア」として登場しており「三つのしもべ」こと「ロデム」「ロプロス」「ポセイドン」を従えています。

 そのBF団は『三国志』の「諸葛孔明」が軍師として指揮を取っており、幹部の「十傑衆」にも横山光輝作品の有名キャラが勢揃いしていました。『水滸伝』から「混世魔王・樊瑞(はんずい)」、『マーズ』からは「衝撃のアルベルト」、その娘は『魔法使いサリー』の「サニー・ザ・マジシャン」といった具合です。

 また主人公の「草間大作」が所属する国際警察機構の幹部「九大天王」も十傑衆と同様でした。『水滸伝』の「神行太保・戴宗(たいそう)」、『バビル2世』の「五十嵐所長」が「静かなる中条」として登場し、十傑衆と熱い戦いを繰り広げます。

 それぞれが名作の主要キャラクターということもあって、十傑衆や九大天王の存在感は凄まじく、ジャイアントロボが不要なのではないか、と思われるほどの活躍ぶりです。原作マンガとは大きく異なりますが、横山光輝先生のファンなら目が離せなくなることでしょう。もちろんジャイアントロボについて全く予備知識がない人でも熱くなれる作品です。



「菊千代」は「キクチヨ」でロボ! 「アニメ『SAMURAI7』アニバーサリー・BD-BOX」(フロンティアワークス)ビジュアル (C)2004 黒澤明/橋本忍/小国英雄/NEP・GONZO

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あの名作時代劇がSFに!?

『SAMURAI7』

 2007年にスカパー・ブロードキャスティングが運営していた「パーフェクト・チョイス」にて放送され、のちにNHK総合などでも放送されたアニメ『SAMURAI7』の原作は巨匠、黒澤明監督の代表作『七人の侍』です。アニメでも農民の助けに応じた7人の侍が村を襲う野武士を撃退する、という筋書きで、そこは原作映画のとおりです。しかしSF要素が加えられたことで大幅な改変が加わりました。

 収穫の時期に農村を襲撃して米を奪っていく野伏せり(のぶせり、野武士)が、なんと巨大なメカサムライなのです。農村に空飛ぶ巨大なメカサムライが現れ、内蔵した細いアームで米俵を奪っていく様子はかなりシュールだといえます。作品世界では宇宙船や巨大メカサムライが躍動する一方、自然に囲まれた農村が稲作をしており、機械文明と自然が融合しているのが特徴です。

 そして農民の助けを求める声に応じて巨大メカサムライと戦うのが、超人的な戦闘力を持つサムライたちです。彼らは原作映画と同じ名前で登場していますが、そのルックスはかなり改変されています。禿頭の古武士「島田勘兵衛」は長髪、ピアス、長身、浅黒い肌の「島田カンベエ」に、原作映画で三船敏郎さんが演じた「菊千代」は、なんと全身が赤いメカの「キクチヨ」になっています。

 ルックスから原作の鱗片すら見いだせない彼らではあるものの、その性格や立ち位置はかなり原作に忠実です。島田カンベエはサムライたちのリーダーで軍師的なポジションですし、キクチヨはサムライに憧れる農民のままです。

 サムライがスタイリッシュに巨大なメカサムライを叩き斬っていく様子がハイクオリティなアニメーションで描かれており、原作映画『七人の侍』を知っている方はびっくりするかもしれませんが、キャラクターやシナリオのアレンジには納得できる点が多いのではないでしょうか。

『ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉』

 おなじみ『ゴジラ』を原作とするアニメ『ゴジラS.P〈シンギュラポイント〉』は、肉や骨をもった生物としての「ゴジラ」ではなく、ある種のシステムでありカタストロフの象徴としてのゴジラが描かれています。迫りくる災厄に「神野銘」と「有川ユン」というふたりの天才が立ち向かうSF要素が濃厚な作品です。

 本作をロボアニメとしている最大の理由は「ジェットジャガー」にあります。これは1973年の映画『ゴジラ対メガロ』に登場した人型ロボで、ニヤリと笑みを浮かべたようなフェイスデザインが特徴であり、フィギュアなどの立体物も多数リリースされ、マニアックな人気を誇ります。

『ゴジラS.P』のジェットジャガーは、「オオキタファクトリー」によって製造されました。当初は脚の代わりにタイヤが付いており、胴体部に人が搭乗して操縦するなど既存技術の延長線のメカとして登場しましたが、物語が進むにつれて進化します。そして遂には自我を持ち(声優は釘宮理恵さん!)、最後は巨大化してゴジラもろとも結晶化し大爆発しました。

 ジェットジャガーがこんなに健気でかっこよく描かれる日が来るとは、ゴジラファンの誰も想像していなかったでしょう。東京を破壊しようとする巨大な怪獣としてのゴジラや、ライバル怪獣という図式から大きく変更されたゴジラ作品だといえます。

変えてはいけない作品の魂

 以上、3作品を原作改変が凄いロボアニメとして挙げましたが、どの作品も絶対に変えてはいけない「原作の魂」を継承しています。未見のかたはぜひチェックしてみてください。きっと楽しめるでしょう。