mol-74によるワンマンツアー<mol-74『Φ』release tour>が、11月8日の東京・Zepp Shinjuku公演にて最終日を迎えた。
今年5月22日に、自主レーベル「11.7」設立以来初のフルレングス作品となる3rdアルバム『Φ』をリリースしたmol-74。同作を引っ提げた今回のツアーは、6月から7月にかけて全国8か所を駆け抜ける前半戦と、10月から11月に東名阪3か所を巡る後半戦に分けられ展開された。
そのインターバル期間中にも、2か月連続デジタルシングル「脈拍」「また思い出しただけ」のリリース、さらに過去最多の8公演からなる中国ツアーの敢行など、話題には事欠かなかった彼ら。より羽を伸ばした活動が可能となったいま、その進化のスピードはさらに上がっていることだろう。
東名阪のファイナルシリーズではツアー前半戦とセットリストがガラリと入れ替わることが予告されており、初日公演に参加した筆者も、どのようなライブが繰り広げられるかを心待ちにしながら開演を待った。
客電が落とされ、ステージ後方の照明がおもむろに灯り始める。舞台上には、ギターアンプやシンセサイザー、ドラムセットといった機材の狭間に、気泡が絶え間なく浮かび続ける4つの水槽が配置されていた。メンバー三人より少し遅れて登場した武市和希(Vo, G, Key)が、ピアノのコードを奏で始める。ライブの口火を切ったのは、最新作『Φ』のラストチューン「R」。物語のエンディングを思わせる内容であり、実際にツアー初日では本編の最後に演奏されていた楽曲だ。本公演が、『Φ』を再解釈し新たな色や形を作品に与えるものとなることを予感させる選曲とも言えるだろう。続く「Answers」の軽快な16ビートが、少しずつ、しかし確かに、私たちを幻想的な世界へと連れ去っていく。
坂東志洋(Dr)の力強いドラミングに会場のハンドクラップが重なり繰り出されたのは、疾走感あふれる「BACKLIT」。ライブ序盤の起爆剤としての即効性は十分のようだ。さらに「Renew」と躍動的なナンバーが続けざまに放たれ、「全瞬間煌めいていく」というサビのフレーズに合わせ、オーディエンスは眩しい光に手をかざす。
「前半戦とはまったく違う楽曲をお届けしますし、何よりこのツアーを経て僕たちが培ったものをお届けしたいと思ってます。それぞれが思うように、自由に楽しんでください」という武市のMCには、より精度を増した自身の表現力に対する自信がみなぎっていた。三拍子のリズムに胸が躍る「ノーベル」では、高音になればなるほど柔らかさが増すような彼ならではのファルセットボイスが、Zepp Shinjukuの広い空間を目いっぱいに使って響き渡る。一方、あえて隙間を埋めすぎないように構築されるサウンドメイクは、まるでそこに誰かの居場所を残してくれているかのように、優しく温かい。
そしてこの日のライブでは、その包容力だけではなく、バンドの繊細で孤独な一面も覗かせた。夕焼けを思わせるオレンジ色にステージを染め上げた「フランネル」から、セットリストは内省的な楽曲にフォーカスを合わせていく。叶わない思いを綴るバラード「虹彩」の歌い出しでは暗闇の中で武市のみがスポットライトに照らされ、その心情を密やかに打ち明けるようにメロディが紡がれた。続く「ゆらぎ」は武市の弾き語りに近い構成の楽曲だ。しかし、ディレイを用いて波紋が広がっていく井上雄斗(G, Cho)のギターフレーズ、武市の歌声に彩りを添える髙橋涼馬(B, Cho)のコーラス、感情のざわめきを音に変えたような坂東のシンバルロールが加わることで、4人組のバンドだからこそ具現化できる寂寞感を表現していたのが印象的だった。
ある時は離れた場所から見守ってくれるように。そしてある時は隣に寄り添ってくれるように。そんなmol-74らしい遠近感の振り幅を端的に示したのが、中盤で立て続けに披露された最新シングル「また思い出しただけ」「脈拍」だ。エレクトロな同期音やシンセベースなど多彩なサウンドを自在に操る彼らのレパートリーの中でも、ひときわシンプルで繊細なアンサンブルが特徴的な「また思い出しただけ」を、武市は一人ひとりに語り掛けるように歌う。一方で、「天井の高いところでやったら気持ちよいだろうなと思っていた曲」と紹介された「脈拍」は果てしなく壮大だ。彼らのルーツでもある北欧のポストロックからの影響を感じさせる同楽曲は、10年以上前に髙橋によって原型が完成していたという。それがいま、憧れを超越した唯一無二の音像を持って鳴らされているという事実が、バンドの歩みの尊さを物語る。
井上のボウイング奏法による幽玄としたギターサウンドの余韻に浸る会場に、「楽しいです、ありがとうございます」と呼びかける武市。「長かったね、今回のツアーは。中国編も含めると全19本。すごく充実してました」と、『Φ』を携えたこの半年間の活動を感慨深く振り返る。「ここからは光量の強い曲をお届けします」という言葉を合図に、ライブはクライマックスへ。歯切れの良いアコースティックギターの音色が心地良い「%」では息ピッタリの高速クラップが発生し、井上がサムズアップでオーディエンスを称える。爽やかに駆け抜ける「オレンジとブルー」、一歩ずつ地面を踏みしめるようなビートの「Replica」……透明度を保ったまま様々な色彩を放つ楽曲たちが、ステージ上で色とりどりの照明を浴びるアクアリウムとリンクする。
「10年前の自分が今の景色を見たらすごく喜ぶんだろうなと思いながら演奏してました」と武市が語ったのち、ライブ本編を締めくくったのは『Φ』にて10年ぶりに再録された「アンサーソング」。誰が欠けても成立しないような抑制されたアンサンブルは、4人が辿り着いた現在地を祝福するように、淑やかに響く。クライマックスで、井上は感情のすべてを舞台に刻み込むように、膝をつきギターを鳴らした。会場の誰もが、彼らの様子を最後の一音が鳴り終わるまで息を飲んで見守っていた。
アンコールは恒例のグッズ紹介からスタート。先ほどまでとは打って変わって緩んだ空気の中、冬の楽曲をフィーチャーしたコンセプトライブ<ICERIUM>の第3回が2025年2月9日に開催されることが発表されると、フロアからは喜びの拍手が送られた。
坂東が「今が一番楽しいです。それは皆さんのおかげやと思ってます」と感謝を述べ、武市が「ちょっと早いけど、良いお年を!」と告げると、正真正銘のラストとして、現体制の始まりとなった楽曲「Saisei」が届けられる。性急なビートとベースアルペジオ、そしてボウイング奏法のギターという凝りに凝ったアレンジながら、普遍的な美しさを纏うメロディが楽曲全体を貫く。そんなmol-74らしさの詰まった一曲が、これから訪れる冬を一足早く温めてくれたのだった。
『Φ』の収録曲にシナジーがある既発曲を組み合わせることで作品の可能性を拡張させた前半戦の公演に対し、同作を軸にしつつオールタイムベストとも言える幅広い楽曲が披露された本公演。それは、これまでのmol-74の歴史と『Φ』を正しく接続するという、新たなフェーズへと進むために必要なステップだったのではないだろうか。互いの体温を確かめるように親密な初日公演から、絶対的な世界観を提示したファイナルまで。長い時間をかけてバンドの二面性を浮き彫りにしたツアーを経た今、彼らの進む道はどこまでも無限に広がっている。
文◎サイトウマサヒロ
写真◎上原俊
<ICERIUM>
2025年2月9日(日) @日本橋三井ホール
OPEN:17:00 START:18:00
チケット発売
・チケット:¥4,900 (学割:¥3,900)
・FC先行 (抽選) 11月8日(金) 21:00 – 11月17日(日) 23:59 ※FC特典 有り
・チケットのご購入はコチラ:https://mol-74.jp/contents/864409
・一般 1次先行 (抽選) 11月8日(金) 21:00 – 11月17日(日) 23:59
・チケットのご購入はコチラ:http://eplus.jp/mol-74/