11月10日、牝馬の中長距離女王決定戦となるエリザベス女王杯(GⅠ、京都・芝2200m)が行なわれ、クリスチャン・デムーロ騎手が手綱をとる単勝3番人気のスタニングローズ(5歳/栗東・高野友和厩舎)が早めに抜け出して快勝。2馬身差の2着には12番人気のラヴェル(4歳/栗東・矢作芳人厩舎)が入り、大混戦となった3着は2番人気の外国産馬ホールネス(4歳/栗東・藤原英昭厩舎)が入り、3連単の払戻金は27万8100円という大波乱となった。
一方、単勝オッズ1.9倍という圧倒的な支持を受けたレガレイラ(3歳/美浦・木村哲也厩舎)は最後の直線で行き場を無くし、前の壁に割って入ったところで他馬に接触するトラブルも影響して5着に敗退。波乱を演出する不名誉な役割を担うことになった。
レガレイラのゲートの遅さが不安視されたため、大きな注目を集めたスタート。同馬は横並びで飛び出して先団に付けるかと思われたが、やはりダッシュは鈍く、馬群の内の8~9番手をキープするのがやっとという模様だった。
逃げると見られていたコンクシェル(4歳/栗東・清水久詞厩舎)が先手を取り、初めてレースで装着したブリンカーが利きすぎたのか、7番人気のハーパー(4歳/栗東・友道康夫厩舎)が力み気味に2番手を追走した。その後ろには、前走の新潟記念(GⅢ)を快勝した6番人気のシンリョクカ(4歳/美浦・竹内正洋厩舎)、ホールネスらが進み、中団にはレガレイラ、府中牝馬ステークス(GⅢ)を2着して臨んだシンティレーション(5歳/美浦・池上昌和厩舎)などがじっくりと機を窺った。
ハーパーが突いたためペースはスローにならず、コンクシェルが刻んだラップは1000mの通過が59秒6という平均ペース。前が止まりにくい今の京都の馬場ならば、やはり中団より前の馬に有利な流れだ。
そして、”問題の”直線を迎える。
最終コーナーの手前から仕掛け、下り坂の惰性も生かして一気に馬群の外から先頭に躍り出たのがスタニングローズ。それを目掛けて先団の各馬もラストスパートに入るが、レガレイラは前が壁になって追いづらい状態に陥り、ハーパーとシンティレーションの間を無理に割ろうとしたため、2頭を両サイドに吹き飛ばしてしまう(クリフトフ・ルメール騎手は5万円の過怠金)。さらにシンティレーションは逃げたコンクシェルにも寄られて他馬に接触(コンクシェルの岩田望来騎手は3万円の過怠金)。弱り目に祟り目とでも言うべき、ダブルの不利を受けた。
一方、先頭に立ったスタニングローズは力強い末脚を繰り出して悠々とゴールを目指す。その後ろでは中団の後ろ目から伸びてきたラヴェル、前で踏ん張ったホールネス、シンリョクカ、レガレイラ、ライラック(5歳/美浦・相沢郁厩舎)が激しい追い比べを演じていたが、スタニングローズはそうした争いと関係なく2着に2馬身の差を付けて悠々と直線を疾走。鞍上のクリスチャン・デムーロは左手で小さくガッツポーズをしながら先頭でゴールを駆け抜けた。勝ちタイムの2分11秒1は、2001年に刻んだトゥザヴィクトリーの記録を23年ぶりに0秒1更新するレースレコードだった。
激しい2着争いは3/4馬身、クビ、ハナ、ハナという僅差で、ラヴェル、ホールネス、シンリョクカ、レガレイラ、ライラックの順にゴールした。 一昨年の秋華賞(GⅠ)以来、約2年ぶりの勝利で2つ目のビッグタイトルを手に入れたスタニングローズ。長いスランプから立ち直らせた厩舎の力が素晴らしければ、早めの仕掛けで馬を鼓舞しながら、勝利に結びつけた豪胆な騎乗をこともなげに成し遂げたクリスチャン・デムーロ騎手の手綱さばきは、さすがワールドレベルとファンや関係者を唸らせるものだった。所属クラブの規定で、おそらく来年の早い時期に引退するのであろう本馬がこの先どのレースを選択するのかに注目が集まる。
レガレイラと並ぶ34秒1の上がりタイムで2着に食い込んだラヴェルは、2歳時のアルテミスステークス(GⅢ)で、のちに牝馬三冠を達成するリバティアイランド(4歳/栗東・中内田充正厩舎)を2着に降した経験を持つ隠れた実力馬だ。このレースで手綱をとった川田将雅騎手は、内にレガレイラを閉じ込めながら、自身は直線半ばからしぶとく脚を伸ばしての2着。リーディング上位を占める名手らしい技が彼女のポテンシャルを見事に引き出した。
重賞未勝利、GⅠ初出走の身でありながら単勝2番人気に推されたホールネスだが、そうしたファンの見立てに応えるように、いったんは苦しくなりながらも、激しい争いのなかで3着を確保したのは立派のひと言。勝ち馬と差があったのは確かだが、まだキャリアは7戦。5歳を迎える来年にはさらなる進化を遂げた姿が見られるはずだ。
一方、大きな人気を背負って5着に敗れたレガレイラの評価は難しい。課題となるスタートは五分に切れたが、そのあとのダッシュは鈍く、中団の後ろ目を追走することになり、ルメール騎手は「いいポジションが取れなかった。スタニングローズの後ろならいい競馬ができたと思うが、スタートは良かったものの、そのあとの走りはいつも通りで、位置が後ろすぎた」と述懐。相変わらずスタートから位置取りまでのプロセスに課題を抱えていることを明かした。
また、直線でシンティレーションとハーパーの間を強引に割ろうとしたところでも、詳しく見ると、2頭の間が開きそうなタイミングで馬体を滑り込ませようとした瞬間にハーパーが内へ刺さり、結果として両馬に不利を与えるという、いささか不運な面があったのが確認できる。ゆえに、それが過怠金5万円という罰金では上から2番目の処分となったことを表していると思われる。
このレースでも、これだけのトラブルに関与しながら2着のラヴェルと同じ上がりタイムを叩き出しているように、末脚が一級品であるのは今も間違いない。ただし同時に、レース運びに関する難しさをいまだ残していることも露見してしまった。腕利きの木村調教師がどんな手を打ってくるか、引き続き注目していきたい馬である。
気の毒としか言いようがなかったのは、直線で二度にわたって大きな不利を受け、10着に敗れたシンティレーションである。競馬に「たら・れば」はないとよく言われるが、まともに走れていれば、少なくとも2着争いには加われていたはず。この一戦だけで見限らず、継続的に追いかけていきたいと感じられた。
取材・文●三好達彦
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