舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』で人生初めてアルバイトをしない生活に
──日本で着実にキャリアを積み重ねてきた今、なぜこのタイミングで留学を決めたのでしょうか?
舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』での経験を通して、自分の価値観をアップデートしたいと思うようになったからです。イギリス、ニューヨーク、ポルトガル……さまざまな国からクリエイティブスタッフが集まってチームを組んでいる中で、印象に残っているのが「私たちは文化も言語もまったく異なるけれど、作品をつくるためには、対等に語り合う必要がある」という言葉。素晴らしいと感じたと同時に、日本の演劇業界をあらためて見つめ、日本では「対等に語り合う機会」がまだまだ不足していると感じました。暗黙の了解が多すぎる、と。
言語の壁があっても、お互いにリスペクトしあいながら、言葉を交わしている現場を経験したことで、日本で積み上げてきた「当たり前の感覚」を一度壊してみたいと思うようになりました。芝居のつくり方やコミュニケーションの取り方を再構築して、自信を持ってクリエイティブに臨めるようにしたいんです。
──舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』を経て、国際的な感覚が身近になったんですね。
30代に突入したことも大きな変化でしたね。20代は「やりたい!」という思いだけで何事も突き進めていたけど、30代になってからは将来について深く考えるようになりました。特にエンターテインメントやアートの世界では「プロとアマチュアの違い」が話題になりますが、私は「お客さまのために芝居をしたらプロ」だと思っています。
私は、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』でステージに立つようになって、人生で初めてアルバイトをしなくても生きていける生活になりました。芝居でお金を稼ぐということは、守れるものや未来の選択肢が増えることだと一線で活躍している諸先輩方の姿を見て実感したんです。これまでの「当たり前の感覚」から変えなければいけないと思うようになりました。
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キャリアに悩む若手読者へ「“挑戦は怖くない”と、生き方を通して伝えたい」
──読者の中には「今の自分のままで良いのか」と焦りを感じつつも、なかなか行動できない人が多いと思います。橋本さんのように「これだ!」と思えるものを見つけるためにはどうすれば良いでしょうか?
まずはお金を貯めてみれば良いのではないでしょうか?
──「お金を貯める」ですか……?
はい、アクションが明確で、今すぐできますよね。やりたいことが分からないときに抽象的なものを追い求めても成功しづらいと思うんです。お金さえあれば、やりたいことが見つかったときにすぐに実現のための行動に移せます。とにかく、0円では何もできないので……。お金があれば選択肢が増えるんですよね。
そしてお金を貯めることは決して簡単なことではありません。やらなくてはいけないことがたくさんあり、多くの人と出会うはず。そのプロセスで得られる価値も絶対にあります。私自身、100万円を貯める中で『青年座』に入る目標を見つけました。
落ち込んでいるときや悶々としているときに打ち込むものがないと、人間は精神的に落ち切ってしまうと思うんです。本当にどうしようもなく落ち込んだときは、期限を決めてお金を貯めることに没頭すると良いと考えています。
──とても具体的で参考になります。最後に、キャリアに悩んでいる若手読者に向けてメッセージをお願いします。
悩んでいる人は本当に素敵だと思います。自分の人生に真剣に向き合っているからこそ、悩むわけですから。若くてエネルギーがあふれているときに、まわりと合わせたり「自分なんて」と気持ちにふたをしたりするのはもったいないこと。挑戦することや安定を捨てることは決して怖いことじゃないですよ。
私も決してキラキラした人生を歩んできてはなくて、むしろさらに泥臭い道を歩もうとしていて……。人生初の海外、本当にニューヨークで生きていけるのか、いまも大きな不安を抱えています。もしかしたら1年後、ボロボロの姿で帰ってくるかもしれませんが、そのときは笑ってほしいです(笑)。
(文・写真:水元琴美 編集:いしかわゆき)