今後のIP伝送技術の展望とフォトロンのビジョン
今後、IP伝送技術はどのように進化していくと予測されますか?新たな技術動向やトレンドについてご意見をお聞かせください。
檜山氏:
海外からの映像フィードが、高額な衛星回線からより安価なIP伝送、特にSRTに移行してきています。この流れに合わせて国内メディアも機材導入を進めているように感じます。近い将来、IP映像伝送がもっと身近なものになるのではないでしょうか。
映像のIP化が進むことで、クラウド技術の活用もさらに検討されると思います。AIをはじめとするクラウド側の最新技術との相性も良くなるため、自動ハイライト編集や自動字幕など、映像制作の効率化に向けた取り組みも加速すると考えています。また、クラウドのメリットであるスケーラビリティや場所を選ばない点は、スポット的な利用や遠隔でのライブイベント映像制作にも活用が進むと思います。
平野氏:
IP伝送の規格は普及してきましたので、今後はIPによるリソースシェアの仕組みや、安全で便利なシステム運用に焦点が当てられると思います。設定の自動化やセキュリティ強化がトレンドとなり、SRTやNDIなどの共通規格やクラウドの普及により、高品質な番組制作のハードルが下がっていくと考えています。
放送業界では人的リソースの問題や予算削減もあり、効率的な制作体制が求められています。IP化がその一助になると考えていますが、ITエンジニアと従来の放送エンジニアの両立が課題です。IPの知識がないままでは伝送の本質を理解できません。SDI時代の映像制作フローをIPに置き換えた際に「何が変わり、何を変えなくてよいのか」を理解できる人材の育成が必要だと思います。
今後の製品開発やサービス展開、そして業界全体の発展に向けて果たしたい役割やビジョンについてお聞かせください。
平野氏:
まず、私たちは伝送プロトコルに依存したソリューションではなく、あくまでST2110もSRTもNDIも、さらには従来のSDIも一つの手段として考えています。お客様の良き相談相手として、それぞれのメリット・デメリットを踏まえた最適なソリューションを提案していきたいと考えています。
また、既にIPを活用したシステムや製品は数多くありますので、そういった製品の販売やシステム構築はもちろん、実証実験やデモンストレーション、勉強会などを開催して、少しでもお客様のIP化へのお手伝いができればと考えています。
檜山氏:
SRTをはじめとしたオープンなプロトコルを活用し、より多くのお客様に手軽にIP技術を導入していただけるようなサービスを展開していきます。
特に中小規模の制作現場でも使いやすいソリューションを提供し、業界全体が求める効率化や柔軟なワークフローの実現に貢献したいと考えています。また、クラウド技術やAIとの連携を強化し、次世代の映像制作を実現するための新しい価値を提供していきます。
技術の進化と共に、映像制作や放送の未来は大きく広がっている。フォトロンの取り組みが、その未来を切り拓く一助となることを期待したい。
また、Inter BEE 2024内の企画展示「InterBEE DX×IP PAVILION」へフォトロンは参加している。フォトロンを含めた多くのベンダーやアドバイザーが集まり、IPの相互接続性や基礎技術の紹介、数年後を見据えたIP技術のトレンドなどを紹介している。ここでは、ST2110だけでなく、クラウドベースの制作ワークフローや各種SRT、NDIといったプロトコルも取り上げられており、映像制作の未来を感じられるのではないだろうか。