なぜ韓国で『スラムダンク』が大人気なのか?「同じ文化を吸収した若者が韓国と日本両国にいる」ことの特別さ

近年の日韓関係は「戦後最悪」といわれるほど悪化した時期があった。しかし、日本ではK-POPが人気を博し、韓国では『スラムダンク』の映画が記録的なヒットとなった。

書籍『在日コリアンが韓国に留学したら』より一部を抜粋・再構成し、文化的に同じ価値観を共有しつつある、日韓関係の新しいかたちをレポートする。

「エスパ」の熱狂ライブが映す日韓関係

在日コリアンである僕は、いわば「日本と韓国のはざま」に生きている。日韓関係については、幼いころからずっと関心を持ってきた。自分の生活にダイレクトに関わるからだ。

だが、メディアで報道される日韓関係の姿には違和感を覚えることが多い。普段大阪に住んでいる僕からすると、メディア上での日韓関係は「東京とソウル」、つまり政府間関係にすぎないと思う。「大阪と韓国」の関係はまた異なって見えるのだ。本稿では、僕が大阪と韓国で見た日韓関係のリアルな姿をお伝えしたい。

2023年3月15日の大阪城ホール。K-POPの人気ガールズグループ、aespa(エスパ)のライブを見に行った。

aespaは韓国・日本・中国の多国籍グループとして2020年11月にデビューした。「自分のもう一人の自我であるアバターに出会い、新しい世界を経験する」という独特の世界観が人気を呼び、YouTubeのミュージックビデオ再生回数は1億回を突破。楽曲はビルボードのランキングへのランクインを次々に達成している。

ライブ開演の1時間前。グッズ売り場に並ぶと、お目当てのうちわは売り切れだった。スーパーグループの人気ぶりを思い知らされた。メンバーの顔が大きくプリントされたうちわを持っていれば、メンバーからレス(反応)をもらえる確率が高まる。「もっと早く来るべきだった」と後悔した。このときはまだ、後にレスをもらいまくることは知らない。

午後6時半、まっ暗闇のステージを一閃の光が照らし出す。しばしの静寂。ステージが開くと、4人がそこに立っていた。大歓声がホールを包み込む。コロナ禍の制限は緩和され、声を出せる。「かわいい!」「大好き!」の声が飛ぶ。僕もめいっぱい叫んだ。

曲の最中、歌詞に合わせて韓国語でのコール(かけ声)が観客から起こった。会場が一体になる。K-POPグループの現場で、日本の観客から韓国語でコールが起こることにはもう驚かない。言葉の壁なんて簡単に飛び越え、すでに日常の風景となっているのだ。

曲はすべて韓国語だが、MCは日本語で話す場面もあった。メンバーが一生懸命に日本語を話すたび、会場全体から「かわいい~」の声がこだまする。メンバーは韓国語で話す場面もあるのだが、通訳される前に歓声があがっていた。

ということは、メンバーの話す韓国語を理解するファンが一定数いるということだ。ここでもやはり、言葉の壁はすでに存在しなくなっている。

筆者の席はセンターステージからみて最前列だった。メンバーが何度もこっちを見てくれた。筆者の身長は181センチあるので、目立つのだ。手を頭にあててハートの半分を作ると、カリナさんとウィンターさんがハートの半分を作ってくれた。あのaespaが、レスをくれた。夢みたいだった。生きていればいいことがあるものだ。

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日本、中国、アメリカで、K-POPのCD売り上げの75%を

カリナさんのソロステージには心を打たれた。競争の激しいK-POP界。その中でも、所属事務所のSMエンターテインメントはBoAや少女時代を輩出するなど、超名門だ。彼女がこのステージに立つまで、どんなに高い壁を超えてきたのだろう。

その果てしない努力が透けて見える圧巻のパフォーマンスだった。指の関節一つにまで神経が注がれ、繊細ながらも力強さを感じさせるダンス。たった一人で1万人を超える観客を相手にしていた。隅から隅まで作り込まれた素晴らしいステージだった。

ちなみに、aespaは日本語の曲を一曲も出していない。歌詞はすべて韓国語か英語だ。これまでのK-POPグループは日本デビューのために日本語の曲を出し、日本の音楽番組に出て知名度を上げ、そのうえでコンサートツアーを行うという戦略をとることが多かった。

aespaは日本向けの活動が必ずしも多くないのに、大阪、東京、埼玉、愛知でツアーを行い、10万人以上を集客している。これは驚くべきことだ。

K-POPの側から見て、日本は重要な場所である。最大の市場であるともいえる。2022年の韓国のCD輸出額は過去最高を更新し、約300億円。そのうち、最大の輸出先は日本である。実に36%を占めている。日本に次いで、中国、アメリカが続く。日本、中国、アメリカの3カ国で、K-POPのCD売り上げの75%を占める。

米中対立や歴史認識問題など、各国の政府間関係は親密で良好とは言い難い。それでも、なんのことはない。3カ国の若者たちはK-POPが大好きなのである。筆者自身、友人の日本人学生や中国人留学生とはよくK-POPの話題で盛り上がる。