キリアン・エムバペ、謎に包まれたフランス代表選外の真相。性加害疑惑のペナルティーか温存策か…様々な憶測報道がなされる中、当の本人はだんまりを決め込む

 キリアン・エムバペにとっては、弱り目に祟り目だったはずだ。

「クラシコで計8回のオフサイドを取られ、チャンスを逃すたびに苛立ちの表情を浮かべ、ピッチ上でもチーム内のヒエラルキーでも、本来は自分自身が担うべき主役の座をヴィニシウス・ジュニオールに譲っている選手として、ファンの目には映っている。まもなくキャリアのピークを迎える年齢(25歳)で、最も不愉快な時期を過ごしている」

 大物フリージャーナリストのサンティアゴ・セグロラ氏は現在のエムバペの状況をそのように表現したが、そんな逆境に直面する中、レアル・マドリーの9番は2か月連続でフランス代表から落選した。

 しかもコンディション不良を理由に本人の希望で外れた前回とは異なり、今回ディディエ・デシャン監督は選外の理由について「スポーツ面以外での問題ではない」とだけ述べ、詳細を明かしていない。唯一強調しているのは、その10月シリーズ中に訪れたスウェーデンで持ち上がった性加害疑惑とは無関係であることだけだ。

 選外の真相についてはスペイン国内でも様々な憶測が飛び交っており、『AS』の前編集長のアルフレッド・レラーニョ氏が、「そのスウェーデンでの一連の出来事を受けてのデシャン監督からのペナルティー」との見解を紹介する一方で、同紙のアリツ・ガビロンド記者は「最も重要な国際大会に向けて体力を温存する戦略とする見方もあるが、監督、チームメイト、そして国民はそのような特別扱いを認めるだろうか?」と“温存説を”持ち出して、その信憑性に疑問を投げかける。
  そんななか、エムバペはだんまりを決め込んでいる。振り返れば、移籍騒動においてもそうだった。パリSGを退団した時も、マドリーに加入した時も、様々な人間が発言し、様々な憶測報道がなされる中、当の本人は沈黙を守り続けた。自分自身は一切口を開かずに、思惑通りに物事を進めるエムバペの能力を「沈黙のコミュニケーションの達人」と評するのが前出のガビロンド記者で、次のように言及している。

「エムバペは、自分はすべてを手にする権利がある人間であると信じている節があり、実際、その力を与えられている。いつ、いくらでクラブを去るか、監督のためにどのポジションで、どのようにプレーするか、自分が支配することになるドレッシングルームで、誰とつるんで、誰と敵対するかといったことを全て決めている。そうやってこれまで7年間にわたって、パリSGやフランス代表を縛り付けてきた。なぜなら自分自身が善悪を超越した存在と考えているからだ」

 マドリーではセグロラ氏が指摘しているように、ヴィニシウスに続く2番手になることを受け入れ、謙虚に振る舞ってはいるが、ガビロンド氏はアントワーヌ・グリーズマンの9月の代表引退発表を引き合いに出して、「エムバペが絶対的なボスとして君臨する未来を察知していたことも、グリーズマンの決断の背景にあるかもしれない。パリSGの関係者によると、今フランス代表で起きていることは、彼らがパリで耐え凌いできた地獄の7年間と酷似しているという」と語る。

 つまり、今回の代表落選で弱り目に祟り目になっているかどうかも、実際のところは分からない。それもまたエムバペの沈黙のコミュニケーションがもたらしている憶測の1つに過ぎないからだ。

文●下村正幸

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