ダウンロード版のおかげで、特別な事情でもない限りゲームソフトの発売日に行列が作られることはなくなりました。そうした利便性とかけ離れたファミコン時代、『ドラクエ3』を求めた人たちによる行列の思い出を振り返ります。



ファミコン版『ドラクエ3』を手に入れるため、発売日当日は日本中に行列が生まれた。画像はスイッチ版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』。

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『ドラクエ3』販売当日、何が起きたのか?

「ドラクエ」ファン待望の新作である、HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』が、本日2024年11月14日についに発売されました。事前予約やダウンロード販売などで、発売日当日からさっそく本作をプレイする人も多いでしょう。

 しかし、本作の元となったファミコン版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』は、発売日にプレイできない少年が続出したほか、社会問題になるほどのトラブルも起きていました。

 この記事では、筆者の体験も交えつつ、『ドラクエ3』が巻き起こした現象を振り返ります。

いまとは異なる、行列販売の問題点

 ファミコン版『ドラクエ3』は1988年2月10日に発売されました。本作に対する注目度は非常に高く、発売前日の深夜や当日の始発電車でゲームショップやデパートに向かった人も多く、そのなかには子供たちの姿も多くありました。

 店が開くよりも早い時間に集まり、先着順に列ができ、それが次第に長蛇となります。しかも、1988年2月10日は平日の水曜日だったため、開店後に販売する店舗に並んでいた場合、学校には間に合いません。子供たちの大半はそれを承知で列に並んでおり、学校をサボってでも『ドラクエ3』が欲しい、という熱気が渦巻いていました。

 一方で、いまのような転売目的による購入は、少なくとも表面的には目立っていません。あくまで主観を含む話になりますが、欲しがっている本人が並ぶか、子供や友人に頼まれて代行的に買いに来る人がほとんどといった印象でした。

 しかし、何ら問題がなかったわけではありません。まず、前述の通り学校をさぼった子供たちが多く、全国的に補導の対象となりました。また、恐喝や窃盗目的で購入者に接触して取り上げてしまう、いわゆる「ドラクエ狩り」が横行し、ニュースとして報じられています。

 いま現在は、転売目的による競争激化が問題視されていますが、当時は補導に犯罪と、全く異なる問題が起こりました。また、需要の高さに目を付け、販売店側による「抱き合わせ商法」が発生したのも、問題行動のひとつといえるでしょう。時代によって、抱える問題の傾向や性質が大きく変わりました。



このオープニングを自宅で見るため、多くの人びとが販売店に足を運んだ。 (C)1988 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.

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いまも語り継がれる『ドラクエ3』の行列問題

扇情的な報道とは異なる筆者の体験

 このように報じられた事実に注目すると、当時の状況が無法的で過酷だと感じる人も多いことでしょう。件数自体は限られているものの、それはあくまで判明した数に過ぎません。補導される可能性のある子供の数はもっと多かったでしょうし、「ドラクエ狩り」の被害を誰にも話せないまま泣き寝入りした人がいてもおかしくありません。

 そうした事態は重要な問題だと認識した上で、当時『ドラクエ3』を求めて行列に並んだ当事者たちの体験は、それぞれ異なる印象だったこともお伝えしておきます。日本全国全ての、もしくは大半の行列で、こうした問題が起きたわけではなかったのです。

 当時の筆者は、夜と早朝の間くらいの時間に家を出て、販売店に向かいました。朝早くなら、子供がひとりで出かけてもぎりぎり許される時間帯だったためです。普段、学校に行くために起きる日は寝坊も多いのですが、こうした特別の日にはちゃんと目が覚める、かなり現金な子供でした。

 また、早朝に起きて列に並ぶことに慣れていたのも、正直あります。ゲームソフトの行列は『ドラクエ3』が初めての経験でしたが、当時の子供、特に男の子の多くは、ガンダムのプラモデル、通称「ガンプラ」を買うため、頻繁に行列に並んだものです。

 買うものが違っても、行列に並ぶという行為は同じ。その慣れ親しんだ経験で、『ドラクエ3』の行列にも問題なく参加できました。

販売店によってはスマートな対処も。ただし、悲劇的な結末も

 行列に並び慣れた子供が多かったためか、筆者が並んだ列で目立った問題は起きなかった覚えがあります。しかも、先ほど述べた補導もこの行列は対象外でした。

 実は、筆者が並んだお店では、行列のまま購入するのではなく、購入する際に必要な整理券を先に配る形式でした。しかも整理券の配布は、確か7時か8時頃。整理券があれば、営業時間内ならいつでも自由に購入できたのです(当日限定などのルールはあったかと思いますが)。

 そのため、「整理券をゲット」→「家に戻って支度を済ませ、学校に行く」→「帰宅後、整理券と現金を持ってお店に行く」→「整理券を渡して『ドラクエ3』を買う」という流れで購入でき、学校をサボる必要がありませんでした。

 いまでは、行列に対処するマニュアルを備えた店舗が多く、人手さえ十分なら大きな混乱は起きません。しかし当時はゲームの行列はまだ珍しくて、補導などの問題に対応できなかった(もしくは対応すべきと考えていなかった)販売店も少なくなかったはず。

 筆者が選んだ販売店の対処が良かったのは、模型も扱うお店だったためかもしれません。ゲームの行列はまだ珍しくとも、プラモデルを取り扱う店なら「ガンプラ」による行列は日常茶飯事でした。

 行列に関する経験値は子供だけでなく、一部のお店側にも蓄積されていたのでしょう。経験値で問題を乗り越えるなんて、まるでRPGのような展開です。『ドラクエ3』の購入に相応しい、美しい流れだったかもしれません。

 ただ一点残念なのは、整理券の配布枚数が、自分の順番が回ってくる前に上限を迎えてしまったことです。行列自体には何の問題もなかったのに、並んだ順番で及ばず……そんな結末が、『ドラクエ3』の行列に関する思い出となって残りました。

* * *

 結局遊べないという悲劇で幕を閉じましたが、そのハプニングのおかげで印象深く覚えています。いまではダウンロード販売のおかげで、ゲームの購入目当てで行列に並ぶ機会はほぼなくなりましたが、手痛い失敗も経験した当時の行列をどこか懐かしく感じるばかりです。

Nintendo Switch版『ドラゴンクエストIII』:
(C) 1988, 2019 ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SPIKE CHUNSOFT/SQUARE ENIX All Rights Reserved.