約4年半の連載に幕を閉じた漫画『【推しの子】』。社会現象を巻き起こした人気連載を完結した原作者・赤坂アカ氏に現在の心境を聞いた。(全3回の2回目)
『【推しの子】』に不可欠だった、SNSという要素
――『【推しの子】』で印象に残っている点の1つが、作中でSNSの炎上について何度も描かれてきたことです。
赤坂アカ(以下同) 『【推しの子】』を描くにあたって、「令和の『芸能界もの』にしよう」という意識があったので、その影響が大きいと思います。というのも、過去の漫画作品でも「芸能界もの」はいくつかあるので、差別化のためにも今っぽいものをあえて取り入れる方向で話を回していったんです。
あとは僕自身の実感も関係していると思います。というのも、漫画家もファンの方と直接お話しする機会はサイン会とかイベントくらいしかないんですよね。そうなると、ファンのイメージが「SNSの中の人たち」に寄っていくんですよ。
そして、それはSNSを運用する現代のアイドルも同じはず。他にもYouTuberなども含む、多くの令和の活動者にとって、「ファン=SNSの中にいるもの」に見えているんじゃないかと考え、SNSについては深めに描かせていただきました。
――『【推しの子】』は原作者宣言をしてから最初の作品となりましたが、メンゴ先生と一緒だからできたことを教えてください。
若年層にヒットしたのは、間違いなくメンゴ先生のおかげだと思っています。メンゴ先生の絵は僕ひとりじゃ絶対できないことの最たるものだと思っています。だから『【推しの子】』は「誰かと作品を作りたい」という想いが叶った、本当に人とやる意味があった作品だと感じています。
――ネームと作画を別の人が作るという仕事の進め方は、実際にやってみていかがでしたか?
僕とメンゴ先生は趣味は似てるけど同一人物ではないので、やっぱりシンクロしない部分もあるんですよね。でも、そこが味になるようにネームを描いているつもりなので、僕としては非常にやりやすかったです。
そして、いろいろ勉強させてもらったところも多いと思っています。例えば、細かい演出のかけ方や、漫画の空気感やテンポ感の出し方。そこそこ作品を描いてきた漫画家の技術や手札ってある程度似たようものになってきて、いつどのカードをどう切るかが作家性になってくると思うんですよ。
その点、メンゴ先生とやっていると「あっ、このときにこの手札を切るのか!」と驚かされることが多くて、そこは影響を受けました。
――最終回を迎えて全話が揃った今、『【推しの子】』は最終的にどんな作品になったと感じていますか?
まさにそれは僕自身が最近考えていることでした。「『【推しの子】』って何だったんだろう?」って。
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『【推しの子】』とは何だったのか?
――まさに連載を終えたタイミングだからこそ考えられることですね。
『【推しの子】』の意義というか、この作品を通して何を表現したいのかは最初から決まっていました。それは「ディスコミュニケーション」。つまり、「人と関わるとは、どういうことなのか」ってことですね。
とくに『【推しの子】』が描いたアイドルとファンの関係性って、自然に反しているような歪な部分がそもそもあると思うんです。そういう扱いが難しい歪なものに対して、健全な心で向き合うにはどうしたらいいのか? それを描くことが、つまり「コミュニケーションを描くこと」なのかなと思いました。
そのうえで、作者として「これを読んだ人が現実世界に少しでも何かを持って帰ってきて、参考にしてもらえたら嬉しい」という気持ちもやっぱりある。そういう点では、『かぐや様は告らせたい』(以下、『かぐや様』)も同じテーマを描いていたと思います。
――たしかに。『かぐや様』はユーモラスな形ではありますが、最初からディスコミュニケーションが明示されていましたね。
「人と人とのコミュニケーションにおいて、うまく関係を持つことができない」人たち。それはずっと僕が一貫して描き続けたいものでもあるので、結局そこに帰結するんじゃないかなと思います。それは『【推しの子】』で描いたような、業界内でのコミュニケーションだったり、ファンとアイドルのディスコミュニケーションだったりも、そう。
「こんな人たちが、お互いに少しずついいアプローチをできるようになったらいいな。そうなってほしいな」と思って描いた、「願い」のある作品。それが『【推しの子】』なんじゃないかと思います。
――まさにそこは赤坂先生の作家性だと言えるのではないかと思います。でも、ここまで先生が「人と人のコミュニケーション」に真正面から取り組むのには、何かきっかけなどあったのでしょうか?
僕は人とコミュニケーションを取るのが上手ではないんですけど、周りの人たちからはけっこう「コミュニケーションが上手」と言ってもらうことが多いんです。