「漫画は読み終わった後が大事」
――はい。実際にお話ししていて何も不自由なところは感じません。
僕、高校くらいのときから、黒川あかね(『【推しの子】』メインキャラクターの一人)みたいなことをめちゃくちゃしてまして。
――えっ?
心理学かじってみたり、人の行動様式を勉強したりしてたんです。
――あーっ、黒川あかねも心理学などを通したプロファイリングを演技に活用してましたもんね。
それらを通して「ああ、人ってこういうときに不快になったり嫌な気持ちになったりするんだな」と知っていくことが、僕の人生を救ってくれたところがあったんですよ。
だから、僕はそこで得た経験を読者に返したいというか。「ここに僕が少しでも生きやすくなった方法があるから、同じように困っている人たちの助けになればいいな」と思っていて。
――漫画という形を採ってはいますが、赤坂先生がかつて受け取ったバトンをリレーしているような感じですね。
だから、僕の中では、漫画を描いてるときの僕は「いい人」なんです。善意で描いてるつもりがある。もちろん、それが鼻につくこともあるでしょうけど、僕自身はそれを描きたいから描いているんです。
例えば、芸能界の仕組みを描くことで、「こんなに大変なんだ。じゃあ、ちょっと気遣ってあげよう」みたいに思ってもらえたら嬉しい。僕の中では「漫画は読み終わった後が大事」なので、読んでくれた人の行動を少しでもいいものにできたらなと思っています。ほんの少しだとしても、この世界の全体の幸福度が上がる漫画になったらいいなって。
――まさに「願い」が込められた作品である、と。
そうですね。もちろん、アイドルの内側を描くことで不快に思ってしまう人もいるかもしれない。
でも、現職のアイドルが言いたくても言えないことを描くことによって、その人たちが少しでも救われるのなら、ほんのちょっと不快になるくらいはいいじゃんって、そう思っている部分はあります。
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休みたいけど、どうしても描きたい作品がある
――最後に、今後やりたい仕事や描きたい作品などの展望を伺ってもいいですか?
そうですね、やっぱり疲れたのでいったん休みたいですね。
――ですよね(笑)。
(笑)。でも、休みたいと思いながらも、描きたい作品がどうしてもあるんですよね。いまだにパッと「あれっ、これすごくいいんじゃない?」みたいなアイデアが出る瞬間はあって。僕、メンゴ先生の作品の『クズの本懐』ってタイトルが大好きで、こういうタイトルをつけた作品を作りたいとずっと思ってたんです。
そしたら最近、いいタイトルが浮かんだんですよ。本当にタイトル始まりの作品になるんですけど、それで漫画を描きたいという気持ちがありますね。他に準備しているネームもあるので、それもやりつつですけどね。
――おお、めちゃくちゃ気になりますね。
そして、やっぱりこれから原作者としてやっていくつもりなので「絵を描く作家さんの個性に合わせたものを描いていきたい」という思いは強いです。
取材・文/照沼健太