介護職従事者を利用者の迷惑行為(セクシャルハラスメント等)から守ることを、2020年(令和2年)に事業所に義務化された。現場でのセクハラ対策はどう変わったのか、世界15か国を訪問し、各国のホームヘルパー事情などに詳しいホームヘルパーの藤原るかさん(69歳)に聞いた。
トラウマから結婚できなくなる女性ヘルパーも
法改正前は、セクハラがあっても、事業者側は契約の解除が難しかったという。藤原さんが経験しただけでも、ひどいハラスメント行為があった。
「肩を抱かれる、胸や手を触られることがあります。入浴介助中に、男性器の皮の中まで洗ってほしいと言われたり、トイレ介助中にかがんでいると、股間に顔を抑え付けられ、口淫性交を迫られたりすることもありました。
“出来心で……”などと言い訳をする男性がいますが、これは犯罪です」
そういった悪意のあるケースばかりではない。
「感情失禁(些細な刺激で大喜びしたり、激怒したり泣いたりするなど、感情が刺激とは不釣り合いに過度に出てしまう状態)があったり、パーキンソン病のような症状がある認知症の高齢者には、幻聴・幻覚・幻視があることがあります。
私を奥さんと間違えてベッドに押し倒す、就寝介助のときに、ベッドに引き込まれるといったこともありました」
ハラスメントを行う男性は、独身者や妻を亡くした男性や地位の高い人に多いという。
「そういった時には、まずは口頭で『何をするんですか! ふざけないでください』『これは犯罪です! ここにはもう来られなくなります』ときつく言います。
だけど、相手は高齢者や障害者であっても、男性なので、力ではかないません。自分の身を守るために、相手がケガをしないように気をつけながら、突き離したり側を離れたりすることもあります」
藤原さん自身はこうしたトラブルに対する知識があったため、トラウマにはならなかった。
だが、友人には20代の頃に受けたセクハラのトラウマで、40代の現在も結婚が怖いと独身を貫いているヘルパーもいる。
力で対抗できる男性と違い、女性介護従事者の受ける精神的なダメージは大きい。うつなどの精神疾患を発症する女性もいる。
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どこの事業所からも断られ「ヘルパー難民」になる人たち
一方でセクハラを繰り返し、どこの事業所からも、サービス拒否をされ「ヘルパー難民」になる高齢者もいるという。
「プライバシーの問題もあり、ブラックリスト化されているわけではありません。ですので、現状では引っ越してしまえば分かりません。
サービスを拒否できるようになったことや、時代とともに男尊女卑の考えが薄まったことで、深刻なケースは減ってきています。
ですが、高齢者の性欲は、90歳を過ぎてもあります。根本的な解決には、国が予算を割くしかないでしょう」
だが、2024年度の介護報酬改定により、訪問介護事業所の報酬は改悪された。
2024年上半期の「介護事業所」の倒産件数は95件で、そのうち「訪問介護事業所」の倒産は46件と記録的に増加している。