バルサB主将→フリック監督就任→2028年まで契約延長→トップで定位置確保。シンデレラストーリーを駆け上がる21歳マルク・カサド、初選出のスペイン代表でも存在感を示せるか

 昨シーズン、若手が次々にブレイクしたバルセロナの周辺で、よく聞こえていた声がある。「ラミネ・ヤマルとパウ・クバルシは黙っていてもそのうち頭角を現していただろう。シャビ監督の一番の功績は、フェルミン・ロペスを抜擢したことだ」

 フェルミンは2023年夏に12ゴール・4アシストを置き土産にレンタル先のリナレスから復帰した。とはいえ、それは3部リーグに相当するカテゴリーでの実績であり、復帰当初に彼をトップチームの戦力としてカウントする者は皆無に近かった。それが2023年夏のアメリカ遠征に帯同し、プレシーズンのクラシコ(レアル・マドリー戦)で後半から途中出場して1ゴール・1アシストを記録すると、その勢いを駆ってシーズン開幕後も、とりわけ後半戦に向けて尻上がりに調子を上げ、最終的に11ゴールを叩き出した。その後、参戦したパリ五輪でスペイン代表の金メダル獲得に大きく貢献したことは記憶に新しい。

 そして現監督のハンジ・フリックにとっても、シャビにとってのフェルミンに当たる選手がいる。マルク・カサドだ。昨シーズン、頻繁にトップチームの招集メンバーに名を連ねながら、実際に出場したのは4試合(計35分)のみに限られ、あくまでも主戦場はキャプテンを務めていたBチーム(3部リーグ)だった。そのバルサBが2部昇格を逃したこともあり、昨シーズン終了後には、レンタルはもとより完全移籍の可能性も浮上していた。

 重要な分岐点となったのが、シャビからフリックへの監督交代だった。カサドは今年6月に2028年まで契約を延長して待遇を改善した後、帯同したアメリカ遠征でマルク・ベルナルとともにアピールに成功。それでもベルナルに比べるとヒエラルキーは下で、事実、開幕のバレンシア戦では、その年下のMFがスタメンで出場する一方で、自身はベンチスタートだった。しかしベルナルがラ・リーガ第3節のラージョ・バジェカーノ戦で今シーズン中の復帰が絶望的な大怪我に見舞われると、フリック監督は迷わずカサドをその代役に抜擢。カサドは期待に応えるどころか、試合を重ねるごとに存在感を高め、フレンキー・デヨングとガビが戦列に復帰した今も、スタメンに定着している。
  バルサ寄りの2大スポーツ紙、『スポルト』と『ムンド・デポルティボ』は、もしシャビが監督を続投していたら、もしセルジ・ロベルトが今夏、契約満了で退団していなかったら、もし今夏アンカーの補強候補に浮上していたアマドゥ・オナナ(現アストン・ビラ)かステファン・バイチェティッチ(現レッドブル・ザルツブルク)を獲得していたら、もしベルナルが故障に見舞われていなかったら、そしてフリック新監督の信頼を得られてなかったら、カサドはシンデレラストーリーを駆け上がることはなかっただろうと見解を一致させる。

 フリックが与えたのは信頼だけではない。カサドが担っている役割は、セルヒオ・ブスケッツやベルナルのような典型的なアンカーとはまた異なり、中盤の底で後方支援に徹するだけではなく、ビルドアップ時にはペドリに一度そのポジションを明け渡すなど、局面に応じて役割を分担しながら責任を全うしている。その際にカサドの下支えとなっているのが、フリック流のハイプレス・ハイライン戦術がもたらすコンパクトな陣形で、自らも素早いアプローチとカバーリングで潰し役となってラインの押し上げに寄与する。

 さらに攻撃面でも的確なパスの配給に加え、ここにきてサイドに展開して得点の起点となったり、縦パスでゴールを演出したりと得点に絡むシーンが増えている。その活躍ぶりは、長年『バルサTV』の記者を務め、“ラ・マシアウォッチャー”として知られるジャウマ・マルセ氏が、「誰も予想していなかった魔法の水の数滴を袖から引き出している」と舌を巻くほどだ。そしてその結果が、「次の招集リストに名前を連ねないことは考え難い」とフリージャーナリストのサンティアゴ・セグロラ氏が予想した通りの、スペイン代表初選出だった。

 先日バロンドールを受賞したロドリ(マンチェスター・シティ)を故障で欠くスペイン代表のアンカーに、バルサ・カンテラ出身の21歳は新風を吹き込むことができるのか。スペイン代表は今月のインターナショナルマッチウィークで、15日にアウェーでデンマークと、18日にホームでスイスと対戦する。

文●下村正幸

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