ゴルフはスポーツのなかでも、とくに意図した動きができないといわれる。その原因が「細胞や脳に関係する」とわかり、自身も素早く100切りを達成した研究結果をレポート。

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※「MOS」とは「memory of the senses」の略で、距離感やフェースの状態などを具体的な感覚量として“小脳で記憶”すること。高い再現性を得ようという新しい理論

ゴルフの呼吸法に関して考えてみる


スイングでは腹筋のコントロールが第1で、呼吸法はそのサポート役であることをしっかり認識しよう

今月は、ゴルフでは余り話題になることのない「呼吸法」についての話です。ゴルフでは見ることのない光景ですが、テニスではショットのたびに大きなうなり声(叫び声)をあげるプレーヤーがいて、ジョコビッチ、ナダル、ウィリアムズ姉妹など、いくらでも名前が浮かびます。テニスでは声を出してショットするのが当り前ということもあって、ネットでは呼吸法に言及している記述も多くあります。

よくいわれているのは、息を吐いて打つと副交感神経が優位に立って筋肉が緩み、強いボールが打てるというものです。私はテニスでもゴルフでも息を止めて打つスタイルなのですが、パワーが出るというのであれば(人目は気になりますが)、声を出す(息を吐く)スイングというのはアリかも知れません。

そこで、心を落ちつけてゆっくり息を吐いてみます。重心が下がり、安定した精神状態になったところでテークバックに入り、息をゆっくり吸いながらトップへ。切り返してインパクトにタイミングを合わせ、ここで声を上げるのははばかられるので「ハッ!」と一気に息を吐き出してボールを打ってみます。

しかし、やってみてわかったのは、息を吐くと体幹の力が抜けて1点に力を集中させて打つのが難しい。また、上半身がやわらかくなるため、遠心力で腕が伸びてスイングアークが広がる感覚があり、わずかですが打点が下にズレるようにも感じます。結局いろいろ試してみて1番しっくりしたのは、インパクトの際に呼吸を止めるいつもの打ち方でしたが、これは息を吐くと筋肉がやわらかくなり、パワーを得られるという理屈と矛盾します。

そこで気になって、パワーリフティングでの呼吸法はどうしているのかを調べてみました。スクワットは、バーを担いで息をお腹に貯める感じで腹に力を入れ、息を止めたまましゃがみ、そのまま立ち上がる。つまり、ここでは1発のパワーを得るために息を止めているのです。

さらに、これというのは呼吸法ではないこともわかってきました。「バルサルバ法」といい、腹筋を操作して腹圧を上げ、体幹の筋肉を固め、脊柱を安定させたうえで最大のパワーを発生させるというものです。これにはドローイン(深層にある腹横筋をおもに使い、腹をへこませるように硬直させる)とブレーシング(腹腔周囲の筋肉を全体で締めつけ、腹が膨らむように硬直させる)の2つの腹圧上昇方があって、とくにブレーシングは、腹を殴られるときに息を止めて腹を膨らませて硬直させる際の動きと一緒でもっともパワーが出るようです。

これは「いきむ」ことをイメージすると理解しやすいと思いますが、「いきむ」ときに息を止めていることからもわかるように、腹筋群主体で行なうといっても呼吸が不可分のセットになっているので呼吸法と混同しやすいのです。

テニスでも「呼吸法でパワーを出す方法」のような形でスイングを調べてみると、ドローインやブレーシングのほかにも腹式呼吸から説明されたり、逆腹式呼吸で説明されていたりします。腹式呼吸では息を吸うときに腹を出して、吐くときに腹をへこめるようにして打ち、逆腹式呼吸では息を吐くときに腹を膨らませて打つとのことです。もしかすると腹式呼吸は、呼吸側から見たときのドローインで、逆腹式呼吸は呼吸側から見たときのブレーシングなのかも知れませんが、これらを縦断的に説明しているサイトは見つけられませんでした。

さらに、冒頭で触れたように息を吐くことで筋肉を緩めてパワーショットを打てることを主張するサイトもあるなど、混沌としていて統一した見解がまだなされていないことに改めて気づかされます。

テニスでもゴルフでも私自身は息を止めて腹に力を入れて打っているので、恐らく一般的なテニスやゴルフのスイングでもブレーシングが正解だと断言できると考えています。これは、声を出して打つのが当り前のテニスの実情と矛盾するように思えますが、大きな声を上げると腹筋群は勝手に収縮を起こすらしいのです。ただ、声を出すというのは当然、息を吐いているわけですが、腹筋群を硬直させる目的での発声・呼気と、体を弛緩させてしまうほどの一気の吐き出しとは別ものとしてしっかり区別しておくことが大切です。

冒頭で「ハッ!」っと息を吐き出すゴルフスイングがうまく打てない実験をしましたが、呼気の少ないうめき声と腹圧を意識したブレーシングを併用したもの、または、オーソドックスに息を止めて腹圧を上げるブレージングに変えてみましょう。このように腹圧をしっかりコントロールすることで体幹が固まりパワーが出るだけでなく、芯もしっかりしてコントロール性もよくなると思います。最終的にはこれらが意識されることなくできれば最高だと思います。

呼吸法は地味で決して主役ではないが、さまざまなスポーツで根強い人気がある。呼吸は交感神経、副交感神経を制御できるほか、肺という臓器を意図的にコントロールして腹圧を上げ、体幹の固ささえもコントロールするのに加担しているからだろう。心拍数のコントロール、平静さの維持に呼吸法は有効だが、パワーを得るの主役は腹腔周囲の筋肉であるべきで呼吸はそのサポート役。そのため今回は、呼吸だけを切り出して特別な意味を与えることは避けた

いかがでしたか? 腹圧をコントロールしながら打ちましょう。

文・イラスト=サンドラー博士
●ゴルフ好きの研究者。ゴルフの専門家ではないが、ゴルフ理論は「教える側」という「外側からの視点で組み立てられているから難しい」ということに気づいてからは、「それをどう解決するか」の研究に没頭。出た答えを多くのアマチュアに伝えたく、毎月レポートする。