英国トラッドとブラウンスウェード靴の相性が良い理由は一体なんなのか。そのために英国におけるブラウンスウェード靴の位置付けや英国の文化を知るところから始めたい。そこで、約30年にわたって世界各国の革靴を見てきた目利き・日髙竜介さんに話を聞いてみた。

「オンの日は黒靴、オフの日は茶靴を履くという英国には特有の文化があるんです」


Sanders/英国の老舗〈サンダース〉を象徴する定番モデル。アッパーとソールの結合部分に薄いラバーテープを巻き付けたマッドガードは、泥や水分の侵入を防ぐための機能的なディテールだ。柔らかな履き心地を実現するクレープソールは長時間着用しても疲れにくく、英国紳士が狩猟やハイキングなど、休日のアクティビティに好じた際に履いていたというスウェード靴の歴史的背景にもマッチする。5万6100円(サンダースジャパン TEL03-6231-0115)

英国トラッドに茶スウェード靴がよく合うのは、英国の文化やスウェード靴の歴史を見れば明らかだ。世界各国の革靴を見てきた日髙さんによると、「元々スウェードという素材は表革に比べても安価で、買い求めやすかったということもあり、また1900年代以前は室内で履くようなアスレチックシューズはあったものの、街中で履くようなスニーカーは存在せず、休日のカントリースタイルにはスウェード靴を履くのが一般的でした」とのこと。

優雅な生活を送る英国紳士が狩猟やハイキングなどに好じる際に、柔らかく靴磨きなどの手入れも不要なスウェード靴を履くことは至極当然のことであったようだ。スウェードの特徴でもある撥水性の高さも休日におけるアクティビティの際に着用された理由のひとつであろう。つまり、稀代のファッショニスタ・ウィンザー公の登場により、ファッションとしての市民権を得る1920年代までは、スウェード靴は単なる“アウトドアシューズ”としての位置付けであったに違いない。

そこでひとつの疑問が生じる。それは、「なぜ茶色のスウェードなのか」ということだ。その点について日髙さんに尋ねると、「英国には『オン(仕事)の時は黒の靴を履き、オフ(休日)は茶の靴を履く』という特有の文化があるようで、これは上流階級も肉体労働に従事するワーカーにも共通します。当時はブラックスウェードも存在はしましたが、このような意識から休日はもっぱらブラウンスウェードの靴を履いていたようです」との答えが。

我々が英国紳士のカントリースタイルをイメージした時にコーデュロイのジャケットやツイードのパンツ、ベージュのバルマカーンコートやワックスドジャケットなどにブラウンスウェードの靴を合わせたスタイルが思い浮かぶのは、実際に多くの英国紳士がブラウンスウェード靴を着用し、そのスタイルが写真や文献、トラッド好きのスタイルなどを目にするなかで無意識に植え付けられていたからなのかもしれない。

近年のスウェード靴の世界的な位置付けについては、「2000〜2010年はイタリア靴が流行し、スウェード靴はあまり陽の目を見ることはありませんでした。しかし、2010年以降は、カーフが希少になったという背景やクラシック回帰の流れもあり、スウェードが注目されるように。スタイルの多様化する現代は、カーフにも劣らない人気を誇っています」と日髙さん。その歴史や流行の流れを理解することで、自身のスタイルに合わせたブラウンスウェード靴を選ぶことがいま以上に楽しくなるはずだ。


サルバトーレ’A/店長 日高竜介さん|世界各国の上質な革靴を取り揃えた「ワールドフットウエアギャラリー」のディレクターを長年勤め、現在は来年オープンするイタリア靴を中心に展開する「サルバトーレ’A」の開店準備に奮闘中だ。

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そもそもスウェードとは。

鞣した革の裏側をサンドペーパーなどで起毛させたレザーのことをいい、北欧のスウェーデンに由来するという説が有力。寒さの厳しいスウェーデンで考案された加工を用いて作られた手袋がフランスで流行し、そこからスウェーデンを意味するフランス語「スウェード」が名称として定着したのだという。今日の革靴に使用されるスウェードにおいては、英国の老舗タンナー「チャールズF.ステッド社」が世界的に有名だ。