「もう使えない」と今も扱われる女性
もっと率直にいえば、〝面倒なことにならない〞対処法として、一歩間違えばガーさんもそうなっていたように、退職に追い込んで、母国に帰してしまう。日本の法律や制度を詳しく知らず、正しい情報に行き着くのが難しい彼女たちの足元を見て、あたかもそれが最善の策だと思い込ませるようなことまでして……。
ガーさんは私たちに相談してくれたから、なんとか覆すことができたものの、「妊娠したら、もう使えない」と道具のように扱われてきた女性たちがとても多いことを、私は知っている。
そしてかつて、ほぼすべての日本人女性たちも同じような扱いを受けていたことを、多くの人が知っているはずだ。もしも今、ガーさんにやろうとしたことを日本の女性に対して行い、その事実が白日の下に晒されたら、きっと大炎上するだろう。なぜ外国人女性に対しては、いまだにこんなやり方がまかり通ってしまうのか。
私たちは今、外国人労働者が妊娠したら出産して、また仕事に復帰するという、ごく当たり前の前例を数多くつくることで、受け入れる側にとっても、労働者にとっても、それが決して難しくないことに変えようとしている。
個々の話し合いで解決するに越したことはないけれども、当たり前のことを実現させるために、団体交渉のような仰々しい場が必要となるのが、この国の実態だ。
妊娠したら、さようならと送り返す。そんな雇い方が許されていいはずはない。
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妊娠したら、さようなら ――女性差別大国ニッポンで苦しむ技能実習生たち
吉水慈豊
2024年10月4日¥1,900(本体)+税 円(税込)232ページISBN: 978-4-7976-7452-1なぜ、技能実習生の赤ちゃん遺棄事件は続くのか。 妊婦の悲しみと苦しみに寄り添った女性僧侶が綴る一冊 ベトナム人の「失踪」が相次ぎ、「奴隷労働」と国際的に批判された外国人技能実習制度。 その廃止は決まったけれど、近年は技能実習生が孤立出産に追い込まれ、赤ちゃんの死体を遺棄する事件が立て続く。どうして「悲劇」は繰り返されるのか? 新制度が始まれば、もう起きない? マタハラが許されないこの時代、まるで妊娠したことが罪であるかのように仕事をやめさせられ、日本から追い出される数多くのベトナム人女性たち。 寄る辺なく悲しみ、悩み、苦しみを抱えたそんな妊婦のために戦い、新しい「いのち」の誕生をやさしく支えてきた女性僧侶の著者による、慈悲の記録。