“ファン”と協力する空港
お客さまとの距離が近いのは、CAだけではありません。歩いて乗り降りする乗客に、操縦席からパイロットが手を振り続ける姿は、丘珠空港ならではの名物です。
HACのパイロット・小林啓良機長は、パイロット歴約30年。JAC(日本エアコミューター)、スターフライヤー、ピーチ・アビエーション、エアアジアを経て、2018年にHACではたらくために札幌へやって来ました。
パイロットになる以前は消防士として活躍するなど、異色の経歴を持つ
幼いころからパイロットに憧れ、31歳でようやく夢をつかんだという機長の趣味は、「プラモデルづくり」。丘珠空港の2階ロビーには、小林機長がつくったジェット機やプロペラ機、ヘリコプターのプラモデルが22体(2023年3月時点)展示されています。単なるプラモデルではなく、乗客やCA、パイロットまでが忠実に再現され、中には「丘珠空港のジオラマ」と呼べるような作品もあります。
「飛行機マニアの方や子どもさんが立ち止まって見てくださるのもうれしいですが、何よりも自分が一番喜んでいるかもしれません(笑)」と笑う機長
飛行機本体はキットを使っているが、乗客やCA、操縦席のパイロット、階段などは小林機長のお手製。その精巧さに、取材時も数人の利用客が見入ったり写真を撮ったりしていた
「もしかして、あの飛行機に乗っていた機長さんですか?」
取材時にロビーの窓からプロペラ機を眺めていた男性にそう声を掛けられ、小林機長は穏やかな笑顔で応えます。一日6フライトをこなす日もあるほど多忙なスケジュールですが、フライトが早く終わった日にはロビーに顔を出し、プラモデルを眺める子どもたちや利用客と交流しているそうです。
「プラモデルは小学生時代から好きだったものの、ブームが去るにつれていつの間にかやめてしまっていました。航空業界に入ってからは忙しい日々が続いていましたが、ある時『自分が今乗っている、ずっと憧れてきた飛行機を形にして残したい』と思うようになったんですよね。それで、自宅でつくったものを趣味で他所の展示会に出していたら、それを知った丘珠空港のファンの方々が、空港内にも展示してほしいと要望してくださったんです」
小林機長の言う「丘珠空港ファン」とは、空港に定期的に出入りしているという10名前後の航空ファンのこと。彼らは小林機長のプラモデル展示のサポートをはじめ、空港エントランスの雪像づくりなどにも協力しています。
「こぢんまりとした空港だからでしょうか、何かにつけてフレンドリーな雰囲気がありますね。スタッフ間もそうですし、お客さまともほとんどお顔見知りになります。大きな空港にいたころは、朝の時間帯なんかはとくに大混雑で、お客さまと会話するなんて夢のまた夢でしたから」
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丘珠空港にしかない、3つの“引力”
菅原さんは、入社1年目の時から日本全国の小規模空港を回り、丘珠空港にも取り入れられるアイデアがないか参考にしてきました。駐車場やエントランスの雰囲気、トイレの管理方法、ロビーの色使い、お客さまの動線……。
「空港ってやはりその地域の“顔”なので、地域の特色が出されていたりと、しつらえも空港によって多種多様なんです」
丘珠空港から飛べるのはかつて北海道内の地域のみでしたが、2013年のHAC青森三沢線を皮切りに、2016年にはFDA(フジドリームエアラインズ)が参入し、信州松本線と静岡線が新規就航しました。2023年3月以降は名古屋小牧線が、6月にはトキエアの新潟線が就航予定です。本州への便を利用するのはビジネス客ではなく、大抵が観光客です。
3名のスタッフの話から分かったのは、丘珠空港にあるのは、「はたらく人の情熱」「人の温かさ」「家庭的なフレンドリーさ」の3つだということ。
「小さい空港なので、航空会社さんはもちろん、給油やセキュリティ会社の話、レストランの売店さんの話、清掃業者さんの話……横のつながりが濃くて、いろいろな情報がすぐに入ってくるんですね。スタッフ同士とお客さまとの距離感が近いのが、やはり、ここ丘珠空港の一番の魅力だと感じています」
(文・写真:原 由希奈 画像提供:札幌丘珠空港ビル株式会社)