映画『ルックバック』大ヒットの裏で監督が抱いた苦悩…スタジオは「製作委員会方式」とどう向き合うべきか

藤本タツキの原作をアニメーション化した映画『ルックバック』。本作は、興行収入20億円超え、北米をはじめ海外でも上映され高評価、11月8日からはAmazon Prime Videoで独占配信と多くの話題をかさらっている。本作の押山清高監督にはアニメーター、監督とは別の顔がある。それは同作の制作会社でもある「スタジオ ドリアン」の代表だ。そんな押山をゲストに招き、監督、経営者の両方の側面からアニメーションビジネスについて深掘りしたポッドキャスト番組『流通空論』の内容をもとに再構成してお届けする。

「現在のアニメーション制作会社は悪循環に陥っています。そこから脱するのは無理ゲーに近い感じもする」。そう語るのは映画『ルックバック』の監督、押山清高。

押山は、現在のアニメーション制作会社のあり方に疑問を持っているという。その問題意識のもと、自身で制作会社を立ち上げ、『ルックバック』は生まれた。

アニメーション制作会社が陥る「悪循環」とは

押山は「スタジオ ドリアン」というアニメーション制作会社を2017年に立ち上げた。なるべく人を雇わず、ほぼ押山ひとりでアニメーションを作る小さなスタジオだ。この設立には押山のある想いがあったという。

「僕はフリーランスで15年以上アニメーターをやってきました。すると、制作スタジオの苦しい面ばかりが目に付いていくようになりました。そして、現状でのアニメーションの作り方を続けていると、その悪循環から脱するのは無理ゲーに近いと思うようになってきた」(押山清高、以下同)

「無理ゲー」とはどういうことか。

「アニメーションの制作には、さまざまなハードルがあります。 多くのクリエイターを必要としますし、クオリティを維持するためにアニメーターに無茶な要求をしなければならない。けれど、そもそもがクリエイティブな作業なので、何事も計画通りには進まない。

そんななか、制作スタジオは『作品の納品』という重責を背負いながら、うまく作れるかどうかわからない作品を作り続けないといけない」

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作品がヒットしてもお金が入らない

押山が強調するのは、このような重責にも関わらず、制作スタジオにお金が集まりにくい仕組みで映画が制作されていることだ。

「多くのアニメ作品は『製作委員会方式』という方法で作られます。しかし、この委員会に制作スタジオ自体が出資をしないと、作品がヒットを飛ばしてもスタジオにはお金が入らないんです。

公開の利益は委員会に出資した団体に配分されるので、お金を出していない制作スタジオは、制作費しかもらえない。しかも、その制作費もここ10年でほとんど増えていない。

ですから、いいものを作ろうとすればするほど予算やスケジュールを圧迫して、自分自身の首を絞める状況になるのです」

であれば、制作スタジオが委員会に出資すればいいのでは、と思われるかもしれない。しかし、すべての作品がヒットするわけではない。したがって、そんなリスクが伴う出資を避けるスタジオが多いという。

ここに加わってくるのが、近年のアニメブーム。大量のアニメが作られ、視聴者側も質の高い作品を求めるようになってきている。

「視聴者の目も肥えています。だから作品の質がどんどん求められて、各スタジオがクリエイターの争奪戦になっています。けれども、肝心のクリエイターの待遇は一向に改善しない状況なんです」