映画『ルックバック』大ヒットの裏で監督が抱いた苦悩…スタジオは「製作委員会方式」とどう向き合うべきか

スタジオ ドリアンの生存戦略とは

こうした状況から抜け出すため、押山は自身のスタジオを設立した。では、その生存戦略はどのようなものだったか。

「アニメを作るにはクリエイターが必要で、その人たちを食べさせるために作品を作り続けて売り上げを出さなければならない。まずは、その状態から抜け出すべきだと思ったので、人件費がかからないように極力クリエイターを雇わず、なるべく少人数で作品を生み出せる体制を整えていきました。

単純に私自身が山ほど仕事をすれば人件費が浮くため、自分を圧迫する感じで『ルックバック』は作っています」

実際、スタジオ ドリアンの短編『SHISHIGARI』は押山1人で原作・脚本・監督・作画を担当しているという。押山は少人数のスタジオの強みをこう分析する。

「小さなスタジオの強みは、スピード感や柔軟性を持って動けること。もうひとつ重要なのは、失敗したときのリスクが小さいことです。私自身さえリスクを被ればなにをやってもいい、という強みがあります」

大規模な制作スタジオでは手堅く売り上げを上げる必要があり、スタジオとしてやりたいことを抑制して仕事を受けなくてはならない。しかし、スタジオ ドリアンの場合、「やりたいこと」を優先して交渉に臨める強さがあるのだ。

そうして作品を作るなかで、徐々に制作のスケジュール感も把握できるようになり、『ルックバック』といった原作モノの作品も手がけるようになっていく。

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『ルックバック』大ヒットの裏側

こうして生まれた『ルックバック』の大ヒットはリードにも書いた通り。本作には、随所に押山のこだわりが現れている。それも、チームが少人数だったからこそである。

例えば、そのひとつが58分という尺。長い作品が受け入れられなくなりつつある現代に合わせた「戦略的な尺」だと思われがちだが、そうではないという。

「実は、偶然の産物というか、なにも戦略的にやっていないんです。

最初の企画ではそもそも短編映画の構想で、40~50分ぐらいを想定していた。でも、絵コンテを書いてみると、原作の情報をなるべく削りたくないなと思い、さらに映像化するときに必要な場面を足して、今の尺に落ち着いたんです。

短編映画にする方がビジネス的にはやりやすいだろうという考えもあったのですが、なにより作品のクオリティを重視してこうなりました」

長編とも短編ともつかない、中編とも呼ぶべき映画のジャンルを生み出すことができたのは、押山の作品へのこだわりを反映できたからだった。