『トップガン マーヴェリック』の終盤は、ともすると「出来すぎた流れ」と思われるかもしれません。しかしながらご都合主義とも言い切れない、実に「皮肉な」歴史的事実を反映したものでした。



『トップガン マーヴェリック』シーンカット (C) 2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

【ああ、アイスマン…】こちらがその「ペルシャ猫」と胸熱な若き日のマーヴェリック&アイスマンです(4枚)

あれは「ペルシャ猫」?

 おなじみ「金曜ロードショー」にて、映画『トップガン マーヴェリック』が放送されました。地上波では初めてのことです。本作は、映画『トップガン』(1986年)の続編であり、2022年に劇場公開され大変なヒットを記録しました。トム・クルーズさんが演じる「マーヴェリック」が、前作から約30年後の世界情勢を背景に、若き戦闘機乗りたちと共にとある特殊任務に臨む物語です。

※以下、本記事には作品の重大なネタバレが含まれます。

 この記事が配信されるころには、もしかすると最後の脱出シーンについて「なんであそこにF-14があるの?」と思っている人がいるかもしれません。F-14「トムキャット」艦上戦闘機は前作におけるいわゆる主役機であり、複座型で、しかも物語において複雑な関係にあった「ルースター」とともにこれを駆り最後の戦闘に挑むという、ちょっと出来すぎた流れです。ともすると「ご都合主義?」とまで思っている人もいることでしょう。

 しかしながら敵対国のあの場所にF-14があるのは、相応の歴史的事実を反映した設定なのです。

 劇中で明言はされていませんでしたが、作戦目標となった基地のある「某国」は、制作当時の世界情勢からイラン共和国がモデルと見られます。そしてイラン空軍では、2024年のいまなおF-14が現役というのです。

 2006年にアメリカ海軍からすべて退役したF-14が、なぜよりにもよってアメリカと関係のよろしくないイランで現役なのでしょうか。これは1970年代、「イラン帝国」と呼ばれていたころは親米的な政権だったことに端を発します。

 当時、帝国の支配者であったモハンマド・レザー・パフラヴィー帝(パーレビ国王)は、イラン空軍の次期主力戦闘機を選定するにあたり自ら渡米、候補のなかからF-14に決定しました。帝は大の戦闘機マニアで、F-14が彼の好みに適ったから、という俗説もあります。

 こうして79機のF-14がイランに引き渡されたところで1979(昭和54)年にイラン革命が発生、帝国は崩壊しイラン共和国が成立しました。その後、イランとアメリカの関係が悪化したため、イランのF-14はアメリカのサポートを得られなくなるも、部品やミサイルを独自に開発して国産化することに成功します。そこから独自発展したイランのF-14は、「トムキャット」にかけて「ペルシャ猫」などと俗称されてきました。少し古いデータになりますが、2017年時点でも推定で最大40機程度が現役とか。

 F-14はイランが唯一の輸出先だったこともあり、かくて『トップガン』の主役機でありアメリカ海軍の顔でもあったF-14は2024年現在、皮肉にもイランでのみ現役を続けています。そして『マーヴェリック』にて、主人公たちを設定の破綻なくF-14に乗せ戦闘させることもできた、というわけです。いえ、あくまで「某国」での物語ですが。

 ちなみに、アメリカ海軍におけるF-14の撃墜戦果は、戦闘機4機とヘリコプター1機でした。一方イラン空軍のF-14は、1980年から1988年まで続いたイラン・イラク戦争において、イラク空軍機を159機撃墜ともいわれる大戦果を挙げ、11機撃墜のエースも誕生しています。