「投資がうまくいくかどうかは運だが…」森永卓郎が指摘する、バブル崩壊で破産者になる人の共通点

2023年に「資産所得倍増元年 – 貯蓄から投資へ」というスローガンが政府から発信された。税制優遇措置もあり、これまで投資に興味がなかった多くの人たちも投資を始めたが、経済アナリストの森永卓郎氏は多くの人が投資に夢中になる今の状況に警鐘を鳴らしている。

書籍『投資依存症』(三五館シンシャ)より一部を抜粋・再構成し、その危険性を説明する。

投資がうまくいくかどうかは運

投資信託を買うと、運用会社に毎年信託報酬を支払う。その料率は、比較的料率が低いインデックスファンド(S&P500とか日経平均など、すでに投資の分散先が確定しているファンド)でも、0.05%から1.7%程度だ。

一見、たいしたことがないように見えるかもしれないが、たとえば信託報酬が1.7%だと、10年間運用した場合は、投資金額の17%が運用会社の懐に入る勘定になる。

ちなみに運用会社が投資する銘柄を決めるアクティブファンドのなかには、信託報酬が2%を超えるものもある。ファンドマネージャーが、成長性の高い銘柄を選択することで、より高い利回りを実現するのだから報酬は高くて当然という触れ込みなのだが、アクティブファンドの運用成績がインデックスファンドの成績を上回っている証拠は存在しない。

私の元同僚であり、友人でもあった山崎元氏は、2024年1月に亡くなったが、生前私にこんな話をした。

「森永さん、運用という言葉は〝運を用いる〟と書きますよね。投資がうまくいくかどうかは運で決まるんです」

資産運用のプロ中のプロだった山崎氏でさえ、何に投資したら儲かるかはわからない。未来のことは、誰にも予測できないからだ。

それなのに、金融のプロは、さも自分たちには未来が見えるような顔をして、高い手数料を顧客から受け取る。しかも私がおかしいと思うのは、彼らは仕事が成功しても、失敗しても手数料を変えない。

たとえば、投資信託の基準価格が下落すれば、投資家は損失を被る。ところが、そうしたときにも、運用会社は既定の信託報酬を要求する。投資家は泣きっ面に蜂になるのだ。

私の苦情に配慮したわけではないと思うが、最近になって、成果報酬型の信託報酬を採用する投資信託が登場した。しかし、その投資信託の信託報酬の額は法外なほど高く、とても使いものにならない。金融業者というのは、それほど強欲な存在なのだ。

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「借金で投機」は絶対に禁物

胴元の一人勝ちという意味では、有名なエピソードがある。

19世紀半ばにカリフォルニアでゴールドラッシュが起きた。全米から一攫千金を夢見た採掘者がカリフォルニアに集結した。彼らは、金脈を見つけて富豪になった者と金脈を見つけられずに破産した者に分かれたが、ゴールドラッシュのなかで確実に儲けた者がいた。採掘者たちにスコップを売りつけた業者だ。

金融業者が胴元として一人勝ちするという構造は、バブルの中で鮮明に浮かび上がる。それは、世界初のバブルである1630年代オランダのチューリップバブルのときにすでに始まっていた。

球根ひとつに数千万円の値が付き、富裕層から一般庶民にいたるまでが投機に熱中して、そしてバブル崩壊で軒並み破産者になった。

しかし、なぜ庶民がそんな高額投資に手を出すことができたのか。

当時、チューリップの球根は、現物の取引が中心だったが、途中から一部の高額球根には「所有権証明書」が発行されるようになり、球根そのものがまだ土中にあっても取引が可能になった。現代の言葉で言えば、セキュリタイゼーション(証券化)が行なわれたのだ。

そのことによって、チューリップの球根の所有権は分割できるようになったのだ。金融業者が発明したこの仕組みによって、庶民は高額球根投機の輪に加わることができた。それだけではない。金融業者は投機のための資金を融資して、バブルを煽ったのだ。

バブル崩壊で破産者になる人の多くに共通するのは「借金で投機をした」ということだ。自己資金だけで投機を繰り返したあとでバブルが崩壊しても、最悪自分の資産をすべて失うだけだが、借金で投機をするとそれだけでは済まない。

バブル崩壊時に資産は暴落するが、借金は一切減らないからだ。だから、「借金で投機」は絶対に禁物なのだ。

ただ、そんなことは投資の世界では常識中の常識だ。そこで胴元は、自動的に借金をさせる手段を考え付いた。それがレバレッジ(テコの原理)だ。

写真/shutterstock