自分を知って物理的に対処する。赤坂アカが見つけた処世術
――アップデートの話がありましたが、作家にとってインプットはとても重要な要素だと思います。人生のうち最もインプットしたジャンルは何ですか?
インターネットですね。全体としての男性の意見と女性の意見が全然違うことって、すごく多いじゃないですか。だから、僕はどっちの目線も見たくて、女性側の本音がたくさん集まるサイトをよく見てました。
かぐやという女性を主人公とした『かぐや様』を描けたのも、そのインプットが大きかったんじゃないかと思っています。普段、顔を合わせて接してるときには見えない女性の意見が、インターネットによって露出していた。だから描くことができた作品なんじゃないかと。
さっき(参照:【推しの子】インタビュー#2 )「僕は黒川あかねみたいな行動をしたことで生きやすくなった」ってお話ししましたが、その最たる例かもしれないですね。それまでの僕は、他人がどう考えているかを想像できていなかったけど、ネットに書かれた情報から「人間って、こういうものなのかもしれない」という仮説を組み立てていって、それが漫画になった。みたいな。
――最大のインプットが、インターネットやそこでのコミュニケーション、内面吐露というのは、すごく意外でした。
僕はキャラクター作りをするときに、「どうやって人格形成され、こうなったのか」を大事にしているんです。そういう意味では、自分の中にだけあったその秘密を説明できる、過去話エピソードを描くのはすごく好きですね。
――赤坂先生は現在36歳ですが、これで2つの人気連載を終えられました。ヒットを生む具体的な仕事術についても伺いたいと思います。仕事のルーティンはありますか?
ルーティンはなくて、「焦ったらやる」って感じです(笑)。
――「しめきりはインスピレーションである」ってやつですね(笑)。
あと、僕は忘れっぽかったり、集中力が続かなかったりすることがあるんですが、自分の特性をちゃんと調べて、自分と似たような境遇の人たちがどういう対処をしているのかを知ることも重要な作業だったと思います。それによって、「頑張っても無駄なこと=諦めること」と「対処できること」を知ることができました。
――ここにも「分析と仮説」が役立っているんですね。
そうです。とくに僕は物理的な対処をすることが多いですね。「家にいて仕事ができないなら、外に行こう」みたいな。だって、物理的にゲームがないところに行けば、ゲームしないじゃないですか。
僕はよく集英社にお邪魔させていただいてるんですけど、それも対処の1つです。「誰かを頼る」でもいいと思うんですけど、自分の特性をなるべく物理的に解消するようにしています。
――物理的な環境が持つ影響力は強いですからね。
自分の嫌な部分も正面から受け入れ、理解して、対処する。それが僕にとっては「35歳になってできるようになったこと」だと思います。
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健康への配慮も、物理的な環境づくりから
――週刊連載の過酷さは漫画を取り巻く環境の中でも大きな問題だと思うのですが、赤坂先生が健康について気をつけていることはありますか?
気をつけているというか、物理的に徹夜ができなくなりました(笑)。夜になると、寝ちゃうんですよね。寝る時間も早くなっていて。でも、水木しげる先生も「寝れば早死にしない」って言っていたので、素直に寝るようにしています。
――20代の頃みたいに徹夜できなくなって、逆によかったということですよね。
そうですね(笑)。あと、エナドリをやめたのも大きな変化だと思います。コーヒーはいまだにちょっと飲んでるんですけど、糖分の摂りすぎはよくないってことに気づいたので、今は水が美味しいですね。
――エナジードリンクと水の差は絶対に大きいですね。
これも物理的な対処で、水や味のついていない炭酸水を箱で買っておいて、家事代行サービスの方に冷蔵庫に入れておいてもらっています。そう、家事代行をお願いしているのも大きいですね。僕は掃除ができないので、もう諦めてやってもらっています。
「その分、自分は頑張って家事代行サービスをお願いするためのお金を稼ごう」って切り替えました。自分が抱えていたいろんな問題が物理的に解消できるようになっていったのは、すごく嬉しい話です。
――「自分の特性を知って、物理的に対処していく」。これは誰にとっても強力な助言となりそうですね。
そうだといいなと思います。僕も昔は「ちゃんとやるから」って言ってたんですけど、今はちゃんと「できません」って言うようにしました。遅刻するときも「あと5分で着きます」と言って10分かかるのではなく、初めに「10分かかります」と言って5分で着くようにしています。
――それは重要ですね(笑)。
「できる」と見栄を張らないのは、大人になったってことかなと思います。そのほうが結局みんな不幸にならないですし。ただ、原稿だけは「大丈夫、今夜中にやります」って今でも言っちゃうんですけど……(笑)。
――(笑)。最後に、赤坂先生は現在36歳ですが、40歳までにしたいことはありますか?
筋トレですね。過去に何度か調整してみては、継続できないという失敗を続けてきたので、成功したいんですよね。自分を抑える能力の低さにほとほと自分でも呆れてます。
筋トレに成功できたら、それは僕の特性が変わったと感じられる瞬間なのかなと思うので、そんな自分になりたい。それが憧れですね。
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取材・文/照沼健太