10分落ち込んで、切り替える。トヨタWEC率いる小林可夢偉流のメンタルコントロール術を紐解く。そこにはチーム代表としての覚悟と責任

 11月13日に、2025年シーズンも今季と同じドライバーラインアップでWEC(世界耐久選手権)を戦うことを早くも発表したTOYOTA GAZOO Racing。先日のスーパーフォーミュラ鈴鹿戦の土曜日には、トヨタのWECチーム代表兼ドライバーの小林可夢偉による凱旋会見が実施され、マニュファクチャラーズタイトルを獲得した今シーズンの振り返りや、質疑応答などが行なわれた。

 ポルシェ、フェラーリ、BMW、アルピーヌなど、非常に多くのメーカーが参画して賑わいを見せた今季のWEC。トヨタはポルシェ、フェラーリと勝利を分け合いながらシーズンを戦ったが、最終戦バーレーンで8号車(セバスチャン・ブエミ/ブレンドン・ハートレー/平川亮)が優勝したことでマニュファクチャラーズタイトル6連覇を達成。ドライバーズタイトルは逃したものの、群雄割拠のシーズンでメーカーとしての総合力を見せつけた。

 チーム一丸で総合力を見せたシーンのひとつとして象徴的だったと言えるのが最終戦のバーレーン。このレースでは、わずかながら逆転でのドライバーズタイトルの可能性を残していた7号車(小林/ニック・デ・フリーズ/マイク・コンウェイ)が、燃料ポンプのトラブルで戦線離脱。時間をかけて燃料ポンプを交換し、入賞圏外ながら完走を目指すという選択肢もあったものの、チームは7号車をリタイアとすることで、そのリソースを全て中団で苦戦している8号車に振るという決断を下した。

 苦渋の決断だったと語る小林チーム代表だが、その結果8号車は優勝を果たし、チームや周りの人々が熱くなるようなレースができたのではないかと振り返る。

 チーム代表とドライバーを兼任しながら、手強いライバルメーカーとしのぎを削った今シーズンは「チャレンジング」だったと表現する小林チーム代表。チーム全体の雰囲気作りも意識しながら、ドライバーとして自らを鼓舞していく必要もあるわけだが、彼は自身のメンタルを切り替えるための“マイルール”があることを明かした。

「10分間落ち込む時間を作って、10分経ったら絶対に切り替えるという自分ルールを作っています。10分経ったら『はい、終わり』という形で切り替えています」

「やはりそういった悔しさを感じないとなると、おそらくレーシングドライバーとして成長しないと思っています。レースをやっている限りは、悔しいと思うから自分が強くなる。でもその“悔しい”と思う時間に制限をかけるということです」

 悔しい出来事、悲しい出来事があった際に、それを10分で切り替えるというのは、誰もが容易に出来ることではないだろう。「10分ルール」を可能にしているのは、これまでのレース活動で経験してきた様々な悔しい経験が背景にあるのかと尋ねると、彼はこう答えた。

「いや、違います。簡単に言うと、覚悟です」

「僕たちはセッションが進む中で、自分の出番が来たり、次に何をするかを考えたり……という時間軸があります。そのスケジュールの中では、大体10分くらいしか自分が落ち込む時間を作れないんです。でもその10分で『すごく悔しい、何がダメだったんだろう』と反省する時間を、時間制限付きで設けるんです」 

「ちょっと言い方が悪いんですけど、もし自分があと10分しか生きられなかった時に何をするか、という問題と一緒なんですよ」

「人間って『今年中に考えればいいわ』と思ったら、ずっとダラダラして、本質的なことを考えられないまま、自分の課題も解決できないまま次の作業に入ったりしていますが、自分には時間がないんだと考えた時に、自分がどうやって成長すべきか、何が悪かったのかという反省点が結構クリアに見えたりするんです。いきなりやってできるものではないかもしれませんが」

「それが良いか悪いかは分かりません。でもやらないと前に進めないし、チーム代表という立場の人間が落ち込んだままだと、チーム全体が暗くなるというリスクがあることを考えると、自分にはそういうことを考える必要があるのかなと思い、そのルールを作りました」

 

 そういったルールを課して自省し、気持ちを切り替えているという小林だが、彼は決して自分ひとりでチームを引っ張っていこうとは考えていないという。あくまでチーム全体を空気感や価値観を尊重し、それを“応援”するというスタイルを意識している。

「組織やチームが大きくなっていくほど、ひとりの人がリードしていくのではなく、チームが考えていることを(チーム代表として)しっかり応援してあげるというチームづくりをしていく方が、元気があってやりがいを持てるチームになると僕は思っています」