TVアニメ『エルガイム』と、そのデザインまわりを一手に引き受けた永野護先生の、ライフワークともいえる『ファイブスター物語』は、とても関係深いといわれます。両作品はどう関わりあっているのでしょうか。



40周年を記念し発売される「重戦機エルガイム ドリーマーズ Blu-ray BOX」(バンダイナムコフィルムワークス)よりシーンカット (C)創通・サンライズ

【画像】劇場アニメ化された『ファイブスター物語』の「ナイト・オブ・ゴールド」と「エルガイム」を見比べる(6枚)

根強いファンの多い名作『エルガイム』

 2024年でTV放送から40周年を迎え、BD-BOXの発売も決定した『重戦機エルガイム』は、その独特なメカデザインが根強い人気を誇り、いまだに新作プラモデルキットがリリースされ続けている人気作です。

 その『重戦記エルガイム』と深い関係があるとされているのが、永野護先生によるマンガ『ファイブスター物語』です。このふたつの作品には、いったいどんな関係があるのでしょうか?

TVアニメ『重戦機エルガイム』は壮大な歴史の一部だった!?

『重戦記エルガイム』は『機動戦士ガンダム』や『聖戦士ダンバイン』などで知られる富野由悠季監督によるTVアニメです。「二重太陽サンズ」を中心に5つの惑星が配された「ペンタゴナ・ワールド」を舞台に、主人公「ダバ・マイロード」が反乱軍を率いて、圧制者「オルドナ・ポセイダル」に反旗を翻します。

 戦いの中心となるのは「HM(ヘビーメタル)」と呼称される巨大ロボットで、特に主役メカ「エルガイム」や「エルガイムMk-II」は、いまだに高い人気を誇ります。2025年には40周年を記念してBANDAI SPIRITSからHI-METAL Rブランドでエルガイム Mk-IIがリリースされるほどです。

 そのような『エルガイム』には、これまで富野監督が手掛けてきた作品にない大きな特徴があります。それはキャラクターとメカニックのデザインを永野先生ひとりに任せた点です。これは異例のことで、大抵の場合はキャラクターとメカニックのデザインは別々の担当がつきます。メカあるいはキャラのデザイナーが複数人のケースも珍しくありません。

 つまり『エルガイム』のビジュアルは、富野監督の基本コンセプトに基づき、永野先生が中心になって作られたといえるでしょう。そして永野先生は、富野監督の思惑と異なる裏設定を独自に作成しており、TVアニメに登場しないHMやイメージイラスト、コンピュータアンドロイド「ファティマ」、TVアニメとは異なる結末、異なる歴史の年表を発表しました。これが『重戦記エルガイム』世界における『ファイブスター物語』です。



『ファイブスター物語』第1巻 1998EDITION 著:永野護 (KADOKAWA)

(広告の後にも続きます)

裏設定が公式設定資料集にフルカラーで掲載!

 TVアニメとは何も関係のないどころか、結末すら異なる裏設定の『ファイブスター物語』は、富野監督の了承を得た公式設定ではありません。しかしTVアニメとシンクロしない永野先生の年表やデザインの数々は『重戦記エルガイム』の設定資料集であるムック本「ザ・テレビジョン別冊 アニメシリーズ2 重戦機エルガイム2」(角川書店)の冒頭から数十ページにもわたって、堂々とフルカラーで掲載されました。

 このとき「ファイブスター物語はすべて永野護氏創作によるもので、TVシリーズとは何ら関係ないことをお断りします」という注意書きが小さな文字で付いていました。とはいえ、オフィシャルな設定資料集のもっとも目立つ場所に掲載されていることに何か意味を見出したファンは多かったのではないでしょうか。アニメとは全く雰囲気の異なるイラスト(なぜか解説が英文)や、壮大な年表も衝撃でした。

『重戦記エルガイム』製作の際に産まれた裏設定は、その後に生まれる永野先生の代表作『ファイブスター物語』の原型となりました。

38年にわたって連載が続いている『ファイブスター物語』

『重戦記エルガイム』の放送終了から約1年が過ぎた1986年、アニメ誌「月刊ニュータイプ」(角川書店)にて永野先生は『ファイブスター物語』の連載を始めました。『ファイブスター物語』もまたペンタゴナワールドとよく似た世界ですが、『重戦記エルガイム』から完全に独立しており、その内容は決定的に異なります。

 巨大ロボはHM(ヘビーメタル)ではなく「MH(モーターヘッド)」と呼ばれ、光線を弾き目にも見えない速さで動ける「騎士(ヘッドライナー)」と、人工生命体「ファティマ」が協力して操縦します。騎士は「真空斬り(ソニックブレード)」や「十文字霞斬り(デフォッガーアタック)」などの剣技を駆使して生身で戦うことも多いです。

 さらには魔法使いやドラゴン、サイボーグ、幽霊などが出てきたり、別次元から悪魔が襲ってきたり、神様が自分で自分を発生させるようプログラムを仕込んでいたりと「なんでもあり」の世界観が特徴です。デザイナーが同一人物のため、一見すると『重戦記エルガイム』と似ているようですが、似ているのは外見だけだといえるでしょう。

『ファイブスター物語』は同作の劇場アニメ『花の詩女 ゴティックメード』の制作による休載期間を挟みながらも、38年にもわたって連載されており、しかも近年これまでにない盛り上がりを見せています。あらかじめ物語のすべてを書き記した歴史年表で予告されたイベントが描かれるのを待っているファンも多く、10年ぶりの伏線回収でファンが仰天する、といったケースもあるほどです。まさに大河の流れのようなストーリーテリングだといえるでしょう。

『重戦記エルガイム』は『ファイブスター物語』の一部になった?

『ファイブスター物語』の長大な歴史年表には、『重戦記エルガイム』を思わせる展開が含まれています。該当するのは『ファイブスター物語』の第二部で、反乱軍を率いるのは「ダバ・マイロード」を思わせる青年「ラベル・ジュード」です。彼もまたダバと同じように滅びた王朝の血脈を継いでおり、素性を隠しています。

 そして反乱軍には「ガウ・ハ・レッシィ」のような「ロレッタ・ランダース」、「ミラウー・キャオ」のような「ウェイ・ルース」、「ファンネリア・アム」のような「デイジナ・フレット」が参加しており、ラベルが駆る白いMH「ジュノーン」はエルガイムを思わせるデザインです。

 もしかしたら永野先生は、『ファイブスター物語』として『重戦記エルガイム』の展開を描き直そうとしているのかもしれません。もっとも『ファイブスター物語』の第二部は、歴史年表において星団暦4050年以降のことです。現在は星団暦3060年頃のエピソードが語られているので、第二部はしばらく先になりそうです。

『重戦記エルガイム』のファン、永野先生のメカやキャラクターのデザインに興味がある方は、『ファイブスター物語』を手に取ってみてはいかがでしょうか。アニメに登場したエルガイムや「オージェ」「バッシュ」「アシュラテンプル」などのメカがより進化し、高密度な情報量で描かれています。きっと楽しめるでしょう。