第103回全国高校サッカー選手権埼玉大会は11月17日、埼玉スタジアムで正智深谷と浦和学院による初顔合わせの決勝が行なわれ、正智深谷が1-0で勝利し、8年ぶり4度目の優勝。一方で37年ぶり2度目の決勝に進んだ浦和学院の悲願はならなかった。
後半のアディショナルタイムは3分。試合終了の長い笛が鳴ると、持久戦に耐え抜いた正智深谷の選手はピッチに倒れ込み、就任26年目の小島時和監督は金井豊コーチらと笑顔でがっちり握手を交わした。
厳しい大会だった。初戦の2回戦こそ8点を奪って大勝したが、3回戦は市立浦和に逆転勝ちし、準々決勝は浦和東に2-1。聖望学園との準決勝を1-0で競り勝つと、最終決戦も1-0だ。最少得点差の消耗戦が4試合も続いたのだから、精根尽きたイレブンがピッチに突っ伏したのも無理はない。
94、95回大会で連覇を遂げ、第95回の選手権では初めて8強入りした。しかし、これ以降は一向に結果を出せないでいた。ちょうど昌平が台頭してきたころだ。
この7年間で準決勝に進んだのは1度しかなく、ベスト8が4度。3回戦敗退も1度経験し、2年前は初戦の2回戦で浦和学院にPK戦で屈している。
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「長かったですか?」と記者に聞かれた小島監督は、「決勝に進んで(選手権の出場権獲得に)挑戦するチャンスさえなかったので、このまま行けないのかなと思う半面、行かなきゃとも思ったが、昌平みたいな強豪を倒すのは至難の業と感じてはいました」と述べ、苦しかった胸の内を明かした。
決勝を争う浦和学院は、初戦の2回戦から無失点で勝ち上がってきた堅牢を誇る。3回戦からは3試合連続で「1-0」というのだから、根比べはお手のものだ。
そんな堅陣を切り裂く策について、プレーメーカーのMF近藤七音(3年)は、「相手はボールを保持しながらビルドアップしてくるので、前から重圧を掛けて奪ったらショートカウンターを狙った。うちはコーナーキックも得意なので、このどちらかで得点しようと考えていました」と解説する。
前半17分、MF赤川空音(3年)が右から軽やかに運び、中央でボールを預かった近藤が左に完全無欠のスルーパスを放った。MF小西聖七(3年)の強烈な一撃は、GKに足でクリアされたが、左CKを獲得。思惑通り決勝点につながった。
左利きの技巧派SB鹿倉颯太(3年)がニアに入れたボールは、MF大和田悠(3年)の身体に当たった。CB佐藤飛友(3年)がこぼれ球を素早く拾って弾丸シュート。相手DFに触れてゴールインした。
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準決勝の前半追加タイム、佐藤は相手の2度に渡る決定打をまずヘッドで、続いて右足ではね返し、絶体絶命のピンチを救った。2戦続けてヒーロー的存在となり、「入ってくれと思った。準決勝を無失点で勝ったので今日も大丈夫だと思い、(チームで)点を取ることだけを考えました」と喜んだ。
小学3年の2015年6月、埼玉スタジアムであったロシア・ワールドカップ、アジア2次予選のシンガポール戦を両親と観戦。「ここに立ちたいって親に言いましたが、(今日は)埼スタで勝つ試合を見せたかった」と優しそうな表情で語る。佐藤はこの日、応援席にいた両親と姉に最高のプレゼントを贈った。
先制したものの先はまだ長かったが、正智深谷はどの局面でもボールへの出足で先んじ、1対1でも忠実にタイトに粘り強い応対を最後まで継続。主将の大和田は、「8月頃から全員でいろんな要求を出し合ったら、守りが良くなったんです。なので、選手権に向けて無失点で勝つことをテーマにしてきました」と決勝での“ウノゼロ”が誇らしそうだ。
3年前に全国高校総体に出場。3年生はそのチームにあこがれて入学してきた選手が多い。小島監督は「正智深谷で全国に行くんだという志を持った選手なので、今年は勝負の年だった」と喜び、「埼玉勢は長らくベスト4にも入っていないので、みんなで団結してそこまで勝てるように責任を持って戦いたい」と全国選手権での抱負を口にした。
今年は“深谷”が一躍有名になった。近代日本経済の父と呼ばれる実業家、渋沢栄一の肖像が描かれた新一万円札が7月に発行されたのだが、深谷市は渋沢の出生地でもある。
4月に還暦を迎えた小島監督は、「今日は赤い服を着ようかと思ったんだけど、やっぱりやめました」と言って笑わせた。新一万円札に8年ぶりの選手権に60歳の祝い。“深谷”は今年、当たり年になった。
取材・文●河野 正
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