東海地方の公立小学校に勤める35歳の男性教員・ミズノさん(仮名)。新卒から10年余、世間では中間管理職となり始める、この世代ならではの問題や悩みに直面しているという。中堅ならではのリアルな悩みや立ち位置について話を聞いた。
35歳教師が直面する3つの変化
「団塊の世代が退職していき、若い20代の教員が徐々に増えてきています。その中で、私たち30代の教員は数が少ない。そしてこの年になると主に、“3つの変化”に直面します。一つ目が、若い教員と組んで学年を担当し、必然的に学年主任という役割を任されることです」
文部科学省が令和6年3月に公表した「令和4年度学校教員統計」によると、小学校教員の平均年齢は42.1歳と、前回の調査(令和元年)から0.5歳低下。
各世代の構成は、30歳未満の比率が全体の20.2%と1.0ポイント上昇しているのに対し、50歳以上の比率は31.3%と2.6ポイント低下しているなど、全国的に若返りが見られる。
その中で35歳といえば、若手とベテランを繋ぐ中堅ポジション。教員生活10年余のなかで、あらかたの生徒指導や保護者対応を経験し、「学年主任」という名の中間管理職を任される人も多くなってくる。
「学校の規模は大小さまざまですが、少子化の波もあり、各校の児童数は年々減少傾向にあります。2~3クラス程度が平均的なクラス数ではないかと。
ある程度経験を積んでいる若手と組むことは、そこまで不安はないのですが、全くの新人と組むとなると話は違う。教員という仕事もそうですが、社会人としてのイロハ的なものを教えながら、自分の仕事もこなしていかなければならないのですから」
新人育成の体制が整っている大企業の場合、新卒は人事部から数か月間かけて社会人としてのマナーや基礎知識をきっちりと叩きこまれてから各部署に配属される。だが、人手不足が叫ばれる学校ではそうはいかない場合が多いというわけだ。
「もちろん、教員の世界にも新人育成を担当する職員もいますが、常に指導してもらえるわけではなく、基本的には同じ学年の中でカバーし合いながら進めていきます。
学年のクラス数が3クラス以上だと、年齢や経験を踏まえて担任を編成しますが、2クラス以下となると、新人と二人でタッグを組むことがほとんど。仕方のないことですが、新人指導はなかなかに骨が折れます。結果的に、1人で2クラスの担任をしているような感じになってしまうのです」
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問題児の対応は経験がすべてじゃない?
ミズノさんが苦労しているのは、新人指導だけではない。豊富な経験を買われ、対応が難しい児童や保護者のいるクラスの担任を任されているのだ。これが、35歳教員が経験する2つ目の変化だ。
校長や教頭からしたら、当然2、3年目の教員よりも、ミズノさんのような10年以上の経験がある職員に任せるほうが安心できると考えるだろう。しかしこの判断に、認識のズレがあるとミズノさんは指摘する。
「私としては経験がすべてではないと思っています。児童との相性で、指導のしやすさは変わってきます。
例えば、若い先生のほうが児童と世代が近いため、話しやすかったり話が合ったりするケースも少なくない。また、任される仕事が多くない分、昼休みなどの時間に子どもたちと一緒に遊んで関係を深めることもできます。
体力面でも、中堅やベテランよりも優位。結果的に、問題児への対応も、若い先生のほうがうまくいったりします。その逆で、中堅職員が担任することで、児童との関係が悪化してしまうこともあるのです」
たしかに自らの学生時代を思い出してみても、より感覚が近い若い先生のほうが話しやすいと感じた覚えのある人も少なくないのではないだろうか。
また、指導困難な児童は、何らかの理由で保護者からの愛情を十分に受けられていないこともある。
「若い先生にしかできない関わり方がその子を変えることもあります。教員の年齢だけで役割の軽重をつけるのは考えものだと感じることが多々ありますね」とミズノさんは語る。
そんな中、近年では、「学年担任制」を採択する学校が増えている。1人の教員が1クラスを担当する従来の担任制とは異なり、複数の教員がチームとなって学年の児童を指導するという体制だ。
実際、ミズノさんの学校でも実施されており、「この制度は、生徒指導に不慣れな若手を助けている上、中堅職員の負担を減らしていると感じる」と話すが、その一方でひとりひとりの子どもとじっくりと向き合う時間が減るなどのデメリットも感じているようだ。