中村憲剛も称賛する“尖った”スタイルでPO進出に王手。大一番を制した寺田周平監督率いる福島のサッカーがやはり面白い

[J3第37節]福島 2-1 沼津/11月17日/とうほう・みんなのスタジアム

 初のJ2昇格を目指す福島にとって大一番だった。

 大宮と今治のJ2自動昇格が決まっている今季のリーグ戦で、残りの最後の一枠を争うプレーオフに進出できるのは3位から6位までの4チーム。6位の福島がホームで迎えた中山雅史監督率いる7位の沼津との一戦は、両者にとってまさに生き残りを懸けた一戦であった。

 そんな重要なゲームで、今季から寺田周平監督が指揮を執る福島は、らしいボールを大事にするサッカーで見事に勝ち切ってみせたのだ。

 寺田監督は現役時代は川崎でCBとして活躍し、引退後は川崎で指導者の道を歩み、2020年からは鬼木達監督の右腕として数々のタイトル獲得に貢献。そして今季から現役時代の恩師である関塚隆テクニカルダイレクターらのオファーを受ける形で、満を持して、福島で監督に初挑戦しているのだ。

 展開するのは、川崎で培ったノウハウなどを活かした魅惑的なパスサッカーである。

 4-3-3を基本布陣に、丁寧なビルドアップと鋭い縦パスを織り交ぜながら前進し、個人技にも長けたウイングの塩浜遼、森晃太、テクニカルなインサイドハーフの大関友翔、城定幹大、アンカーの針谷岳晃らを活かして敵の守備網を崩していく。

 そのサッカーを川崎のレジェンドで、寺田監督の後輩にも当たる中村憲剛氏は以前の関塚氏との対談でこう称賛していた。

「特に今年の序盤戦は尖ったサッカー全開で、観ていて本当に面白かった。その後、当然対策を立てられたはずですし、そこから変化している姿も興味深いです」
【動画】福島×沼津のハイライト
 沼津戦でも「対策を立てられた」(寺田監督)と、スタートポジションは4-3-3で、守備時には4-4-2のように変化する沼津に、CB、両インサイドハーフにプレッシャーをかけられるなど、厳しい時間を強いられたが、相手の守備を外す長いボールも織り込みながら、福島は決して後方からつなぐ戦い方を変えなかった。その姿には、“これが俺たちのサッカーだ”と自信とプライドが詰まっていたように映る。

 その印象を寺田監督に振れば、笑顔で答が戻ってくる。

「J3リーグでいろんなチームと対戦してきたなかで、毎試合毎試合、いろんな課題が見つかってそれを改善してきました。そのなかでビルドアップのところ、最初は僕自身の引き出しも少なかったのですが、選手がトライしてくれるなかで課題が見つかり、いろんなトライを繰り返すうちに、多くの形を積み上がげることがきました。

 だからこそ、今はどんな相手が来ても、しっかりと自分たちのスタイルを貫けるんじゃないかなと、僕自身思っていますし、選手たちも自信を持ってやってくれているのかなと感じます。

 今日も何度か引っかかるシーンもありましたが、そこで怯んで安パイなサッカーをしたら成長しないと選手たちも理解してくれているはず。そこが結果につながったのかな、と」

 そしてこう破顔した。

「何より選手たちの成長を感じられたのが嬉しいです」

 25分にFKから失点した福島だったが、左ウイングの森が得意のドリブルで左サイドを持ち上がり、そのグラウンダーのクロスにインサイドハーフの大関が走り込みながら合わせる形で36分に同点に追いつく。そして78分にはCKから左SBを務めていた松長根悠仁がこぼれ球を豪快に蹴り込んで逆転に成功。川崎アカデミーからトップに昇格し、ルーキーイヤーの昨季は寺田コーチの下で研鑽を積んで、今季は川崎から福島にレンタル移籍しているふたりがゴールを決めた点にも感慨深さを感じるシーンでもあった。

 改めて寺田監督は「今までであれば敗戦、頑張っても引き分けに終わっていたようなゲームを最後、勝ちこして、最後の苦し時間を耐えた。選手が成長してくれたというのをすごく感じています」と力説する。

 指揮官はプレッシャーのかかる終盤戦へ向け、ここ1か月ほど「楽しもう」とチームに呼びかけてきたという。

「楽しんでサッカーをすることが我々のアドバンテージになる。僕自身もこういったシチュエーションを目いっぱい楽しみたいです」

 沼津戦の勝利で、順位こそ6位のままだが、7位の北九州との勝点差は「3」ながら、得失点は「11」上回っている。油断は禁物だがプレーオフ進出はほぼ手中に収めたと言って良いだろう。

 一方でプレーオフはクラブにとっても、指揮官にとっても未知の領域だ。

 それでも福島は臆することなく挑むに違いない。自分たちのスタイルを貫くこと、そして自分たちが楽しめば、観てくれている人たちも楽しんでくれると信じているからこそ、どんなにプレッシャーをかけられても、後ろ向きな姿勢は見せない。寺田監督は以前にこう話していた。

「だって点が入ったほうが面白いじゃないですか。やっぱりそっちのほうが観ている人たちは面白いはずですし、絶対盛り上がる。

 当然、守備も大事で、0-0で最後1点を取って勝つ形も痺れるし、サッカーの魅力だと思いますよ。そこを楽しむ方もいるはずです。だけど自分はやっぱり点を取って勝つやり方をベースにしたい。そもそも点を取らないとサッカーは勝てないですからね」

 ちなみに寺田監督がインスピレーションを受けてきたのは、大木武監督が指揮した甲府やサッリ監督が率いたナポリだという。もちろん、直接関わった風間八宏監督、鬼木監督の川崎からも多くの学びを手にしてきた。

 最近のJリーグでは減少傾向にある技術、そしてボールを大事にしながら、観衆を魅了するサッカーを目指すのが今の福島だ。多くの人を熱狂させるサッカーで昇格を勝ち取れば――。想像をするだけで面白くなってくる。
 
取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)
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