昨年12月に閣議決定された令和6年度税制改正の大綱では、「課税の適正化による増収を防衛財源に活用する」として、「3円/1本相当」のたばこ税の引上げが記載された。また、加熱式たばこの税率を紙巻たばこと同等に引き上げる方針が記されている。

これを受け、加熱式たばこ「IQOS」を展開するフィリップ モリス ジャパン(PMJ)は、11月14日、政府が決定を目指す防衛増税を論点にした「加熱式たばこ増税プレスセミナー」を開催。

PMJの担当者や、有識者が登壇し、たばこ増税の影響について加熱式たばこ市場や飲食店の立場から見解が述べられた。

諸外国では加熱式たばこの税率が優遇

PMJ副社長の小林献一氏は、国内たばこ市場において加熱式たばこのシェアが40%に達したことに触れつつ、紙巻たばこと加熱式たばこの税差について説明。

国内においては、紙巻たばこと比べて加熱式たばこは税率が14%程度低く設定されているが、EUでは平均61%、OECDでは平均55%の税差があり、諸外国では加熱式たばこの税率が大幅に優遇されているという。

その大きな理由のひとつが、健康面への影響。燃焼を伴わない加熱式たばこの場合、発生する有害性成分の量は紙巻たばこと比較して平均90%以上低減されることが科学的に証明されている。税差を設けることにより、加熱式たばこへの切替を促進する狙いが読み取れる。

片や国内においては状況が異なり、令和6年度税制改正の大綱では「加熱式たばこと紙巻たばことの間で税負担の不公平が生じている」として、「同種・同等のものには同様の負担を求める消費課税の基本的考え方に沿って税負担差を解消する」方針が盛り込まれている。

小林氏は「もしたばこ増税を実施するのであれば、税差を維持したまま、紙巻たばこと加熱式たばこ共に増税するのが世界のトレンドだと思う」と、政府の方針が海外諸国の考え方と相反することを指摘した。

加熱式たばこへの切替促進にはインセンティブが必要

公共政策の第一人者であるプログレッシブ・ポリシー・インスティテュート エグゼクティブ・ディレクターのリンゼイ・マーク・ルイス氏は、「日本がたった10年ほどで紙巻たばこの市場規模を半分に縮小したことは各国が見習うべき目覚ましい成果である」とコメント。

政府が加熱式たばこへの切替を後押しするインセンティブを提供すれば、今から10年後を目途に、「日本は紙巻たばこの喫煙の完全廃止を世界で初めて実現する国になれる可能性が高い」という。

一方で、「国が合理的な税政策を実施し、今後も紙巻たばこから代替品への切替を進めていくことが条件となる」といい、代替品への切替がもたらす医療費削減と生産性向上による経済的利益は、紙巻たばこと加熱式たばこの税差解消による増税よりもインパクトが大きいはずだと見解を述べた。

飲食店も紙巻たばこへ回帰する流れを危惧

カフェ、レストラン、クラブ等を経営する株式会社グローバル・ハーツ 代表取締役の村田大造氏は、2020年4月1日から全面施行された改正健康増進法を機に、加熱式たばこ専用室などの設備投資を続けてきたと説明。

「分煙のために客席を減らしたことで売上減少にもつながった」といい、加熱式たばこ増税によって紙巻たばこへ回帰する流れになると、「設備投資の問題が再燃しかねない」ことを危惧した。

紙巻たばこと加熱式たばこの税差解消を含めたたばこ増税の実施スケジュールは未定だが、年内の税制調査会で具体的な議論がなされる見込みだ。

なお、PMJの試算によれば、紙巻たばこと加熱式たばこの税差が解消された場合、加熱式たばこの価格はひと箱あたり最大100円の値上げが想定されるという。

小林氏は、「お客様への影響をなるべく少なくするべく、社内でも価格戦略を含めていろいろと検討している」と述べた一方で、「一企業として努力で解消できる範囲を超えた値上げ幅になってしまうという気持ちもあるので、政府には社会全体のインパクトを考えながら慎重なご判断をいただきたいと考えている」と提言した。