遅刻した時は謝罪だけでなく、言い訳(遅れた理由)を言った方がいい / Credit: Leonardo.AI
遅刻したときには言い訳をせず謝るべきとよく言われますが、本当にそうなのでしょうか。
ネブラスカ大学のジョセフ・モルズ(Joseph Mroz)氏らは、遅刻したときに謝罪と言い訳が回りの同僚からの評価をどう変えるかを調べました。
結果、謝罪をした社員よりも、言い訳をした社員の方が「良い仕事をしそうだ」と評価されたのです。
また、遅刻常習者は当然「悪い社員だ」と評価されましたが、その場合でも、遅刻の言い訳をした方が評価がやや高くなる傾向が見られました。
常識から、遅刻をしたら言い訳をせずに、謝る方がいいと考えがちですが、ささいな理由であっても遅れた原因を言ったほうが周りからの評価は高くなるかもしれません。
研究の詳細は、2020年2月13日付で学術誌「Journal of Business and Psychology」に掲載されました。
目次
思った以上に謝罪は相手の怒りを和らげない遅刻した時の言い訳は回りの同僚からの評価を高める
思った以上に謝罪は相手の怒りを和らげない
思った以上に謝罪は相手の怒りを和らげない / Credit: Leonardo.AI.
読者のみなさんは最近遅刻したことはありますか。
日々の生活でどうしても避けられない遅刻を経験したことは、誰しも一度はあるのではないでしょうか。
仕事や学校、友人との待ち合わせなど、状況はさまざまですが、その場での対応や、相手への気遣いが私たちの印象を大きく左右します。
一般的に、遅刻をしたときには、言い訳をせず素直に謝ることが大切だと考えられています。
たしかに、謝罪は自分の非を認めて後悔を伝えるものであり、誠意や反省の気持ちを相手に示すための一歩と言えます。
しかし、私たちは「謝れば気持ちが伝わるはずだ」と、謝罪の効果を過大評価している可能性があります。
これは謝罪を受ける側であっても同様であることが、近年の研究から報告されています。
それは、エラスムス大学のデイビッド・クレマー氏(David Cremer)らが行った研究です。
彼らは、参加者にペアで、お金の貸し借りをさせ、片方の参加者にお金を貸したにも関わらず、思っていたより少額しか返ってこない状況を作り出しました。
そして、参加者を①相手に少額しか返すことができなかった人が「少額しか返せなくてごめんなさい」と謝るペアと、②謝罪がなく、相手から「謝られた」と想像するペアに分け、その謝罪に対する価値を評価させました。
実験の結果、実際に謝られた場合よりも、謝罪されることを想像した場合の方が、参加者は謝罪の価値を高く評価したのです。
私たちは何かトラブルがあったとき「謝れば許してあげよう」と思いがちですが、その想像は現実とは乖離しているようです。
たとえば「正直に言えば許してやる」と言っておきながら、いざ正直に謝られても簡単には許せないなど、皆さんにも覚えがあるのではないでしょうか。
これは、相手を困らせるためにそうしているわけではなく、私たちが「謝罪の効果」を過大評価しているから生じる現象と言えるのです。
では、もっと相手の心に響き、プラスの印象を与える方法はあるのでしょうか?
ここで参考になるのが、ネブラスカ大学の心理学者ジョセフ・ムロズ氏(Joseph Mroz)らが行った、職場での謝罪と言い訳に関する研究です。
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遅刻した時の言い訳は回りの同僚からの評価を高める
遅刻した時の言い訳は回りの同僚からの評価を高める / Credit: Unsplash
彼らはオンラインで集めた約560名の参加者に、社員が会議に遅刻した場面の動画を見せ、その遅れてきた社員の仕事の能力を評価させています。
動画は、遅刻してきた社員の謝罪の有無をはじめ、遅刻の言い訳の有無、周りの社員が遅刻してきた社員に対し苦言を呈するか否か、社員が遅刻常習犯かどうかなどの組み合わせで、全12パターンありました。
またこの実験で用いられた言い訳は「上司から会議が始まる直前に仕事を頼まれ、それを終わらせてから来なければならなかった」でした。
実験の結果、参加者は、謝罪をした社員よりも、言い訳をした社員の方が「良い仕事をしそうだ」と評価したのです。
この言い訳がプラスの効果をもたらす現象は、会議に遅れてきた社員が遅刻常習犯であっても確認されました。
さらに、同僚たちが遅刻をした社員に対し文句を言わなかった場合、文句を言う場合と比較して、「この会社の社員は質が良い」と評価される傾向があったのです。
言い訳によって能力があると評価される理由は、言い訳が謝罪とは異なり、責任の一部を自分以外の要因にあることを相手に印象付け、遅刻の原因が自分の意思や能力とは無関係であることを伝達するからだと考えられます。
例えば「前の重要な会議が押したため遅刻した」というように、自分が予期せぬ外的要因に対処していたことを伝えると、周囲はその人を「責任感がある」「職務に真面目に取り組んでいる」と捉え、より好意的に評価する傾向があるのです。
ひとつ注意しなければならないのは、「前夜に飲みすぎて寝坊をした」や「レジャーや趣味などの私用が長引いた」などの理由では、今回確認された効果を再現することは難しいということです。
そのような言い訳では、遅刻の原因が本人の外的な要因に帰属すると考えることが難しく、相手の不満を和らげることができず、悪い印象を与えてしまうでしょう。
ちなみに謝罪は一切いらないかというとそうではありません。
後続の調査では、オンラインで参加者を募集し、直近の会議で遅刻してきた人を思い出し、その時の行動(謝罪・言い訳があったか)と遅刻者に対する評価を尋ねています。
その結果、ほとんどの参加者が、ただ謝罪するだけや言い訳をするだけの社員よりも、遅刻した理由の説明と謝罪があった社員を高く評価することが分かっています。
これらの報告は、言い訳は見苦しく謝罪だけの方が印象が良いという考えがただの想像の中だけの話であり、現実の状況を反映していない可能性を指摘しています。
次に遅刻してしまった時には、謝罪だけでなく、その遅れた理由も相手に伝えてみてはいかがでしょうか。
その時の言い訳は、やむを得ず遅刻することになった、自分以外の外的な要因を用いるようにしましょう。
そうすることで、相手の怒りを鎮めると同時に、自分自身に対する印象をプラスの方向に変えることができるかもしれません。
参考文献
Too Late To Apologize – Unless You Have an Excuse
https://www.psychologicalscience.org/news/minds-business/too-late-to-apologize-unless-you-have-an-excuse-too.html
Excuses Why do we rationalize our wrongdoings?
https://www.psychologytoday.com/intl/blog/intense-emotions-and-strong-feelings/201911/excuses
元論文
To Excuse or Not to Excuse: Effect of Explanation Type and Provision on Reactions to a Workplace Behavioral Transgression
https://www.semanticscholar.org/paper/To-Excuse-or-Not-to-Excuse%3A-Effect-of-Explanation-a-Mroz-Allen/39dbb064a3cee46e81250b60811fa89154771c5c
ライター
AK: 大阪府生まれ。大学院では実験心理学を専攻し、錯視の研究をしていました。海外の心理学・脳科学の論文を読むのが好きで、本サイトでは心理学の記事を投稿していきます。
編集者
ナゾロジー 編集部