どんなに長いトンネルでも出口はある。そう信じて、情熱を持ち続けて選手と向き合ってきた男は、勝利の味を誰よりも噛み締めた。
鹿児島城西でコーチを務め、18年に前任の小久保悟氏(現・鹿児島高監督)から指揮官の座を受け継いだ新田祐輔監督にとって、忘れられない一日になった。
監督に就任して7年目。何度も阻まれてきた神村学園の壁を破り、ついに鹿児島城西が悲願の全国大会出場を決めた。11月17日に行なわれた高校サッカー選手権の鹿児島県予選決勝。7年間、冬の大舞台から遠ざかっていたチームは終了間際に2年生エースのFW大石脩斗(2年)が挙げた1点を守り切り、1-0で神村学園を撃破した。
試合終了のホイッスルが鳴ると、新田監督は涙腺を緩ませた。そして、ポケットに忍ばせていたふたつのお守りを取り出す。感謝の意を込めるように何度も何度も強く握り返した。過去の悔しさや今までの苦労は関係ない。その想いは一気に吹き飛んだ。
「監督になってからどうやって勝とうかをずっと考えていた。神村学園と同じことをしていても勝てないから、やっぱりディフェンスからやっていこうと。そこはずっと監督になってから考えていました。神村学園の強烈なスタイルと違う武器がないと生き残っていけない。7年間かかったけど、ディフェンスのところで違いを出せればと思って取り組んできました」
2008年度の選手権で大迫勇也(神戸)が10得点を奪い、準優勝を果たした鹿児島城西。一躍全国区になったものの、その後は日本一を狙えるような位置まで勝ち上がれなかった。
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選手権とインターハイに出場したのは16年度が最後。神村学園に勝てない――。そんな呪縛を解き放つべく、新田監督はサッカーと選手に対する情熱と愛情だけは絶やさなかった。今季、高校サッカーで一時代を築いた名将たちにも教えを乞い、タイミングが合えば食事に行って話を聞かせてもらった。
「いろんな先生にサッカーを教えてもらって、遠征もたくさんさせてもらった。本当にそういうことを諦めずにやって良かったです。負けてしまうと、大御所の先生たちがいるところに行くのが嫌になったり、遠征にも行きたくないなって思ったんですけど、行かないと変わらないなと。この前も(奈良育英で指導していた)上間政彦先生にも試合を見てもらって、その前日にはご飯に行って。全国で勝利を重ねている先生にも教えてもらい、それを快く受け入れてもらった。東福岡の志波芳則先生にも話を聞いて、プレミアリーグで岡山学芸館と対戦する前日には平(清孝アドバイザー)さんに練習を見てもらいました」
そして、何より新田監督を突き動かすうえで大きかったのが、神村学園だ。冗談も交えながらライバルへの想いを明かす。
「素晴らしい存在です。本当にありがたい。神村学園という存在がないと、自分もこんなにサッカーのことを考えることもしなかったと思うし、勉強もしなかった。あと、こんなに痩せることもなかったですよ(笑)」
就任当初は守備重視でハイプレスとロングボールで応戦していたチームは、7年の月日を経て、戦術的に守り、鋭いカウンターや緻密なボール回しでゴールを奪えるようになった。そして、神村学園を下し、久しぶりに頂点に立った。
長いトンネルを抜け、今度は新たなステージに挑む。まだ見ぬ景色を見るべく、新田監督は鹿児島城西の選手やスタッフとともに歩みを進めていく。
取材・文●松尾祐希(サッカーライター)
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