症状が続く場合はしっかりと病院へ
ただし5月と言わずとも、年末年始や夏休み、秋の連休の後、毎週月曜日などに、学校に行くのが面倒になる、ああしんどい、もっと寝ていたいと思うことは誰にでもあることです。この研究では、そうした細部の解析はしていません。
ただ、誤解のないように伝えておきたいのは、こういった時期にメンタルヘルスがいつもより良くないとしても、その状態が必ずしもうつ病や適応障害などの「病気」を意味するものではないのです。
メンタルの状態が一時的に不調であっても、いつしか休み前の状態に気力が戻っている場合は、とくに心配する必要はありません。いわゆる「日常的な気分の変動」であり、誰もが経験する正常な反応です。
五月病に関してわたしがもっとも伝えたいのは次のことです。
春先は大学生にとって友人関係が変わったり、進路などの人生の決断を迫られたり、希望とともに失望も経験したりと、そもそもメンタルの不調をきたしやすい時期です。そのため、調子を崩す学生が増えます。
しかし裏を返せば、春先でなくてもそういった状況に追い込まれた場合は、どの時期であろうとも、メンタルに不調をきたす可能性はあるということです。
また、この研究はあくまで大学生だけを対象としており、この結果がほかの世代にも当てはまるかどうかはわかりません。社会人においても、春先は就職や転職、また人事異動などの変化が比較的多い時期なので、注意すべきだとは言えるでしょう。ただこの場合ももちろん、5月でなくてもいつの時期にも起こり得ることです。
そもそも、適応障害やうつ病は、花粉症やインフルエンザのように季節性の病気ではありません。実際、精神科の外来診療をしていると、どの時期にもうつ病や適応障害の患者さんは受診されます。
臨床での実感としては、季節的な差はありません。メンタル不調の時期という視点で重要なのは、「5月だから注意する」のではなく、「生活の変化があってストレスを感じているときは注意する」ということです。
時期を問わず、メンタルがつらいと思われる症状が目安として2週間以上続く場合は、精神科か心療内科を受診しましょう。適応障害やうつ病、またほかの病気ではないかなどを診断します。
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「HSP」とは特性を表すことば
次に、数年前からメディアで見聞きするようになった「HSP」について考えます。
HSPとは「Highly Sensitive Person」の略で、直訳すると「非常に敏感な人」となります。アメリカの心理学者のエレイン・N・アーロン博士が提唱した心理学的概念であるといわれ、さまざまな事象への感受性が強い性質を生まれ持った人を示すとされています。
その特性は、一般にほかの人が感じないような刺激に過剰に反応する、感情の反応が強い、音・光・においなどの刺激に敏感であるなどで、興奮による疲れが激しいといったことです。
HSPとはその人の特性を表すことばであり、病名や病気を示す用語ではありません。HSPということばが知られるようになった背景には、著名人がSNSやメディアで発言したり、悩む人たちのコミュニティがネット上で広まったりしたことがあるようです。
「自分はHSPだ」と言って医療機関を受診された場合、そのこと自体が治療の対象にはなりませんが、背後にうつ病や適応障害などの病気が隠れているケースはあります。
冒頭で紹介した「僕はHSPです。薬はありますか」という質問の場合は、医師はまず、メンタルと体の両面から病気ではないかを診断することになります。
刺激に敏感な性質や体質というと、誰しも「自分はそういう面がある」と思うのではないでしょうか。とくに、人間関係など何らかの悩みごとがあるときや体のどこかが不調なときには、周囲の人の言動や社会のできごとに過敏に反応し、同じ悩みの人に強く共感したり、音や光、においにも敏感になったりすることはあるでしょう。
もし、ストレスから対人関係に過敏になり、自分はHSPだと悩んでいる場合、そのストレスが軽減すると、対人関係の敏感さも気にならなくなるかもしれません。