高額治療やカウンセリングビジネスに注意
医学的に病名ではないことばが社会に広く知られるようになり、ひとり歩きすることは古今東西、ありがちな現象といえます。ただ、現在のネット社会では情報の拡散スピードが非常に速く、それに比例するように医療情報の内容が変化していき、病気の本質が誤って伝わりやすいことから問題が生じています。
五月病、HSP、カサンドラ症候群はメンタルの不調に、また、自律神経失調症は心身の不調に基づくことばですが、その本質的な意味、概念は適切に伝わっているでしょうか。「このつらさは病気の症状なのか」と迷うことはとても多いと思われます。迷って不安なとき、ネットなどで見つけた、実は不適切であるにもかかわらず刺激的な意見や情報に注目してしまうことがあるかもしれません。
ネット、テレビ番組、雑誌などには、「あなたは○○○○(病名や症状が入っている)かも」というようなチェックリストや、克服の方法といった情報があふれています。そのリストや克服法は、医学的なエビデンスに基づいた確かな内容なのでしょうか。
「病気や病名ではないのだから、メディアや企業、団体、個人がどのように表現しようと自由だ」という考えや、自分好みの刺激的な情報を鵜吞みにし、それを拡散するといった行為はたいへん危険です。弱気になっているときにこういったチェックリストを試してみると、ほとんどの項目が自分に当てはまるように感じられるかもしれません(しかし、実際にはそんなことはありません。誰にでもある心理効果が働いているのです)。
流行していることばを用いたり、人の不安をあおる表現を使ったりして、自由診療で高額な費用をとるクリニックや、専門家ではない人によるカウンセリングといったビジネスも急増していると聞きます。
くり返し述べますが、つらい不調が続く場合、何らかの病気が隠れている可能性があります。ここで紹介したように、病名ではないけれど、健康を害しているような意味合いのことばに接する際には、自らのヘルスリテラシーが重要な役割を果たすでしょう。
*1 Shiraishi N, Sakata M, Toyomoto R, Yoshida K, Luo Y, Nakagami Y, Tajika A, et al. Dynamics of depressive states among university students in Japan during the COVID-19 pandemic: an interrupted time series analysis. Ann Gen Psychiatry. 2023;22(1):38.
写真/shutterstock
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その医療情報は本当か
田近 亜蘭
2024年10月17日本体1150円+税208ページISBN: 978-4-08-721336-2
「この健康食品は80%の人に効果があった」と表示があると、その商品には高い効果があると感じるものだ。
しかし、実際には「たった10人を調査して8人に効果があった」だけかもしれない。
医療の定説や広告、健康食品の表示など、「情報」の正誤や信頼性を見極めること、それは自らの健康を守るための意思決定において重要だ。
「ヘルスリテラシー」とは、「自分に適切な医療・健康情報を探し、理解して活用する能力」である。
その身につけ方や正確な医療情報へのアクセス法について、エビデンス研究の専門家医師が詳細に解説する。
【主な内容】
新聞に載った医療情報…20年後は有効か?
「死亡率が3倍に!」といっても…
医療広告に「体験談」「回数無制限」「施術前後の写真」は禁止
オンライン診療の「やせ薬」処方でトラブルが急増中
通報サイト「医療機関ネットパトロール」がある
健康食品はあくまで「食品」
「飲酒する人には肺がんが多い」は適切か…因果関係の証明は難しい
平均寿命…余命はあと何年?
医療の「エビデンス」には6つの「レベル」がある
「診療ガイドライン」とは医師の診療手引書
診療ガイドラインが検索できる便利なサイトがある
「がん相談支援センター」を活用しよう
「標準治療」ががんの最良の治療法
「先進医療=上質な治療法」ではない
「緩和ケア」は終末期の治療ではない
「統合医療」「代替療法」…ことばを整理する
医療情報の「見極めかた」と「誤りを信じ込む心理」
真実はもっとも面白くないあたりにある