先日行なわれたスーパーフォーミュラ最終ラウンドの際に、鈴鹿サーキットでデモ走行を披露した、A2RLの自律走行レーシングカー。この車両とピットの通信は、格安スマホ通信のSIMカードが使われたという。
A2RLの車体はスーパーフォーミュラで使われているSF23と同じだが、ドライバーは乗っておらず、AIがアクセルワークやステアリングの舵角などをコントロール……まだまだ”人間”がコントロールするマシンには速さという面では及ばないものの、未来の到来を予感させる出来事だった。
そのA2RLのAIと、ガレージ内のコンピュータの通信には、携帯電話の電波が使われていたようだ。
通常のレーシングカーの場合は、ガレージから車両へのデータ通信は基本的に行えない。しかしドライバーとの無線交信、車両からガレージへのロガーデータの送信などはできるようになっており、一般的には無線電波を使うことになる。
ただA2RLは、AIに走行開始などの指令を出すための通信を行なう必要がある。鈴鹿でのデモランの際には、IIJ社が展開する個人向け格安インターネットサービス”IIJmio”の通信が使われ、そのためのSIMカードがA2RLに挿し込まれていたという。
A2RLはアブダビを拠点に活動しており、通常は現地の通信パートナーのサポートを受けているという。しかし日本ではこのパートナーの通信を使うことができないため、実は当初はインバウンド旅行者用のプリペイドSIMで対応することを想定していたらしい。しかしこれではうまく対応できないことが分かり、急遽IIJに打診があったようだ。
IIJはスーパーフォーミュラをITソリューションパートナーとして支えており、SFgoのヘルプデスクサービスなどを提供。またスターリンクを介して、SFgoユーザー限定にはなるものの、サーキットでのWi-FIの提供も行なっている。この関係性が、急遽の対応にも活かされた格好だ。
ちなみに車両1台に搭載されたSIMカードは2枚。それをルーターによって束ね、通信を行なったという。
ただサーキットでレースを観戦したことのある方ならばお分かりいただけると思うが、スタンドに大勢の人が集まると、携帯の電波が弱くなる、あるいは脆弱になることも少なくない。しかし今回はそういう問題は起きなかったようだ。
IIJの担当者は、次のように説明する。
「A2RLには、通信が一定期間途絶える車両側の安全装置が働き、走行が停止する制御が入っています」
「土曜日の走行において順調に走行をこなすことができましたので、途切れるようなことは発生していないと推察しています」
A2RLの走行で、どれだけのギガが消費されるのか……格安SIMを使う上では、気になるところかもしれない。それについては秘密ということで、回答は得られなかったが、200km以上で走行するマシンとの通信が問題なく行なえたことは、IIJ社にとっても有益だったという。
「IIJのIoTビジネスでは、主に製造業、農業、食品などの分野で事業を展開していますが、今回、時速200kmを超え、かつ自立走行する車体との通信が確立されることを実証できたことは、今後の自社の技術創出にとっても有益な知見が得られたと思います」
なおIIJとスーパーフォーミュラのパートナー契約は今後も続いていくとのこと。両者はよりレースを分かりやすく見せるためのDX化に取り組んでいる。まだ時間はかかるとのことだが、サーキットやリモートでレースを楽しむファンの「観戦体験の価値を上げられるよう、支援して行きたい」と語った。