〈斎藤知事再選も…〉「犯罪者」「失せろ」いまだ止まらないネット暴力と脅迫。ターゲットは稲村氏、支援者、百条委…県議は辞職し絶望を口に

11月17日に行なわれた兵庫県知事選では、県議会の不信任決議を受け失職した前知事の斎藤元彦氏が再選した。だが選挙中から、斎藤氏の疑惑を調べてきた県議会特別調査委員会(百条委)関係者らに脅迫的な抗議が続き、選挙後も続いていると当事者らが証言を始めた。調査を熱心に進めた県議が、家族も巻き込んだ攻撃に耐えかね選挙翌日に議員を辞職し、深刻な状況になっている。

「脅迫に近い」「厳正に対応していきたい」と法的措置を示唆

選挙戦は、自民党県連の多数派や、立憲民主党系の議員らが推す前尼崎市長・稲村和美氏が当初優勢だった。それを斎藤氏が追う展開でスタート。

そこへ「斎藤氏を応援する」とするNHK党党首・立花孝志氏が出馬。街頭演説やYouTubeで、「疑惑は“でっち上げ”で斎藤氏は陥れられた」と主張し、斎藤氏に有利な世論が作られる大きな要因になった。(♯2、♯3)

その立花氏が斎藤氏を擁護する中で「斎藤氏を陥れた」として主に名を挙げたのが、いずれも兵庫県議で百条委委員長の奥谷謙一氏(自民党)と同委メンバーの丸尾牧氏(無所属)、そして同じく委員の竹内英明氏(立民系の県民連合)だ。

投開票日の翌日の18日、奥谷氏が記者会見で立花氏の自身への言動を説明した。

「立花氏が(選挙期間中に)私の自宅兼事務所の前で街頭演説を行ないました。まだ映像が残っていますが『引きこもってないで家から出てこいよ』みたいなことを言ってたんですね。私の自宅であるという認識が彼にあったということは明白です。

また『これ以上脅して奥谷が自死しても困るのでこれくらいにしておく』と(発言した)。脅迫目的でやってることを自らおっしゃっている。近隣の方にも大変なご迷惑をかけたし、事前に情報を聞いて母には避難してもらってたんですけど、怖かったんだろうと思います。涙を流すようなこともありました」(奥谷氏)

弁護士でもある奥谷氏はこの街頭演説は「脅迫に近い」と指摘。「厳正に対応していきたい」と法的措置を示唆した。

百条委は、今年3月に当時の西播磨県民局長・Aさん(60)が作成し、メディアや議会関係者ら10か所に送った告発文書に記載された7項目の疑惑の信ぴょう性を確認するために設けられた。

Aさんはその後、懲戒処分を受け、7月に急死。直前にAさんは、県当局が調査過程でAさんの公用パソコンの中から見つけた私的な情報が公開されることを恐れていたといい、自死とみられる。

Aさんの告発はすぐには注目されなかったが、文書に登場する県幹部が企業から物品を受け取ったとして県警に事情聴取されたことを読売新聞が5月に特報。さらに丸尾県議が県職員に独自のアンケートを行ない、告発文書にある内容と同様の証言を得たことが重なり、百条委設置につながった。

その丸尾氏によると、立花氏は奥谷氏の自宅前の街頭演説の後、次は丸尾、竹内両氏のところへ行くと宣言したという。

「その後に不審な車が事務所前でうろうろするようになり、事務所はシャッターを閉めました。クレームの電話やメールが頻繁に来る中、(立花氏が)いつ来るかもわからない状態でした。彼(立花氏)は僕のXを見ているので、『来るんだったら威力業務妨害で提訴も考える』と(Xで)宣言もしました」(丸尾氏)

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妻から「もう政治の道からは退いてほしい」という訴えがあって…

立花氏は結局、丸尾、竹内両氏の自宅などへは行かなかったが、丸尾氏の事務所近くの駅で演説会を開いた際、支持者の間で「これから丸尾の家、事務所に突撃せよ」という会話が交わされていたとの情報を聞いたと丸尾氏は説明。

その上で、立花氏の演説を聞いて支持者らが動いていくと指摘し、「非常に暴力的なものを感じ、命の危険さえ感じました」とも述べた。

さらに、会見で最も衝撃が走ったのは、疑惑解明の先頭に立っていた竹内氏がその場にいない理由が明かされた時だ。

竹内氏はこの日、県議会議長に辞職願を提出し、受理されていた。同じ県民連合の上野英一県議がその事情を語ると会見場は静まり返った。

「今回のこの選挙を通じて言葉の暴力、ネットの暴力、これが拡散して(竹内氏)本人だけじゃなくて、まず家族が本当に大変な状態にまでなってしまってですね…。本人はまず家族を守るのを優先するということで、昨晩も結構話をされたようですが、本当に奥さんは錯乱状態で、『もうこの政治の道からは退いてほしい』という訴えがあって…。

彼ほど優秀な議員はなかなかいないと思うんですが、その優秀な議員を追い込んでしまうほどの今回のネットの怖さ、そしてそれを武器として使って選挙をやる怖さ…。大手の新聞、マスコミは報道倫理がありますよね。

ところがネットの社会にはその報道倫理は全くありませんから、この問題をやっぱりきちっとやらんとですね、今後日本の政治そのものがゆがんでしまうと思うんですね。そういう意味ではマスコミの皆さんも一緒に闘ってほしい」(上野氏)

竹内氏は県庁内外に広い情報網を持つ情報通で知られ、百条委での斎藤氏らへの証人尋問でも独自に入手した情報を基に鋭い質問を連発していた。その背景には竹内氏の強い思いがあったと関係者は言う。

「竹内さんはAさんの高校の後輩で、Aさんが告発文書を送った10人のうちの一人です。Aさんが亡くなった時、竹内さんは泣きながら疑惑の解明が間に合わなかったことを悔いていました。

重要なのは、百条委はまだ調査中で、疑惑の真偽の判断はしていません。しかし『疑惑は全部嘘だ』と主張する人たちから竹内さんは『斎藤さんを陥れた張本人』として最大の標的の一人にされました」(関係者)