集中力の欠如


特定のコンテンツに集中できない人が急増 / Credit:Canva

現代の人々が退屈するもう1つの理由は、集中力の欠如です。

私たちの身の回りには、デジタルメディアが溢れるほど存在するため、注意が分散し、1つのコンテンツに集中することが難しくなっています。

例えば、ドラマや映画を見始めた5分後には、スマホをいじり出している自分に気づくことがあるかもしれません。

動画を流しながら、ゲームをしたりネットサーフィンをしたりするのは当たり前になっているかもしれません。

また、スマホから頻繁に来るチャットの通知で、コンテンツを楽しむ時間が度々中断されることもあるでしょう。

このようなマルチタスクは、私たちから1つのコンテンツを集中して楽しむ機会と能力を奪っており、これが満足度の低下や退屈へと繋がっていきます。

実際、研究では、スマホを自分の近くに置いておくだけで、対面での社会的交流の楽しみが低下し、退屈感が強まると分かっています。

タム氏の2024年の別の研究は、チャンネルを次々に切り替える行為が人々の退屈感を増長させると報告しており、やはり1つのコンテンツを集中して楽しめないことが退屈と関連しているようです。

そして、それら短く断片的な情報は、私たちをさらに退屈させます。

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繋がりのない体験


断片的な情報を大量に得ても、そこに意味の繋がりはなく、満足感も得られない / Credit:Canva

研究チームは、現代の人々が退屈を感じる3つ目のメカニズムとして、「断片的な情報や体験の増加」を挙げています。

デジタルメディアが増加するにつれて、消費が早くなり、人々は手早く刺激を得られるコンテンツを求めるようになりました。

その結果、コンテンツの作り手は、ショート動画などの「短く」「衝撃が大きい」コンテンツをこぞって生み出すようになりました。

しかし研究によると、人々は関連性のない「断片的な情報」を素早く消費した後、それらを無意味に感じ、虚無感を覚えることが多いようです。

そしてこの「虚無感」は、さらに別のコンテンツを消費するよう人々を駆り立てます。

では、たとえ「断片的な情報」でも、それらを大量に寄せ集めるなら、私たちは満足できるのでしょうか。

その答えは、ショート動画を1時間もしくは2時間見続けてしまった後の私たちがよく知っています。

その行為に何の意味も見いだせず、ただただ「時間を無駄にしてしまった」と後悔するだけです。

私たちが心から満足するためには、「意味の繋がり」が大切だと分かります。

1つの長編映画や小説、ゲームを最初から最後までじっくり楽しむことで、一貫性のある体験が得られ、そこに満足感が生まれるのです。

さらにそこから様々な考察を楽しむこともあるでしょう。

しかし、現代のデジタルメディアの傾向は、そのような一貫した体験を私たちから引き離しています。

タム氏らの今回の論文は、デジタルメディアが無限の刺激を私たちに提供する一方で、退屈感を強めている理由を説明しています。

ほんの十数年ほど前、私たちは今ほど毎日が退屈ではありませんでした。

1つのゲームを舐めるように楽しみ、クリア後も裏ボスを倒したり図鑑を埋めたりするのに必死でした。

1つの映画を見る間、1つの小説を読む間、私たちはその世界にどっぷりと浸かり、その世界の住人となっていました。見終わったあとも1週間くらい、ずっとその世界のことを考えて、その世界に浸っていられました。

けれど今、私たちはそれが出来ているでしょうか?

私たちはデジタルメディアが溢れる世の中で生活しているからこそ、片っ端からそれらを楽しまないと損してしまうという気持ちに囚われがちです。

しかし、本当に損しているのは、溢れるコンテンツを片っ端から楽しむことなのかもしれません。

参考文献

Research suggests people are getting more bored
https://www.psypost.org/research-suggests-people-are-getting-more-bored/

Endless digital media was supposed to cure boredom forever — except the opposite is true
https://www.zmescience.com/science/news-science/people-are-getting-bored/

元論文

People are increasingly bored in our digital age
https://doi.org/10.1038/s44271-024-00155-9

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部