年間30日以上登校せず不登校状態にある小中学生が34万6482人に達し、11年連続で過去最多を更新したことが文部科学省の調査で明らかになった。不登校の原因も多様化している。そんな中、人気ゲーム「Minecraft(マインクライフト)」を活用したオンライン支援プロジェクトを展開する「ゆるクラ」が注目されている。今回は発起人である岡村和樹さんに、支援活動の実態を聞いた。
オンラインゲーム「マイクラ」による不登校支援がグッドデザイン賞を受賞
「ゆるクラ」は、オンラインゲーム「Minecraft(マインクラフト)」を通じて、学校に行けない子どもたちの居場所づくりに取り組んでいる団体だ。
不登校の背景に人間関係のトラウマがある場合、他人との対面は大きな障壁となる。自宅にいながら好きなゲームを一緒にプレイするだけなら、外出のハードルが高い不登校の子どもたちにとっても、参加しやすい。
また、ゲーム内でつながりを持ち徐々に人間関係に慣れていくことで、他の場所でも関係の構築に挑戦できるようになるという。さらに在宅でオンラインゲームすることが支援につながるため、親御さんにとっても気軽に参加しやすいのが特徴だ。
革新的なモデルが評価され、ゆるクラは2024年度グッドデザイン賞を受賞した。
プロジェクトの肝となる「マインクラフト」、通称「マイクラ」は、電子版のブロック遊びとも称される。ブロックを使ったものづくり、素材の採集、モンスター討伐など多種多様な遊び方ができる。なぜ、マイクラが不登校支援ツールとして選ばれたのか。
「最近流行しているFPS(一人称視点の対戦型シューティングゲーム)は、バトル要素が強く、子どもが攻撃的になり、ケンカなどの問題が起こる懸念がありました。そこで、平和に遊べるゲームを模索するなかで、マインクラフトに行き着きました。マイクラはバトルも可能ですが、攻撃設定をオフにするなど、トラブルを防ぐための対策を整えています」(代表の岡村和樹さん、以下同)
マイクラは2011年に正式リリース、累計販売数は3億本を超え、世界で最も売れたゲームのひとつに数えられている。
YouTuberの影響もあり、小中学生で知らない人はいないといわれるほど認知度が高いのが特徴だ。
熟練度に応じた遊び方ができるので、ゲームが苦手な子どもでも抵抗なく受け入れやすく、プログラミング教室や一部の学校では、教材としても活用されるなど、保護者にとっても安心して子どもに遊ばせることができるゲームなのだ。
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リアルな支援の場に来られない子の居場所に
岡村さんがゆるクラを設立した動機のひとつに、近しい知人が学校に行けなくなってしまった経験があるという。支援に携わりたいという思いから、広告会社に勤務しながら、2020年頃に不登校支援団体のプロボノ(仕事のスキルや経験を活かして社会貢献のために活動するボランティア)メンバーとしてボランティア活動を開始した。
多くの不登校支援団体と関わるなかで、支援を提供している場所に来られない子どもがいることを知った。
「不登校支援をしている人たちは熱量があって、つながりさえすれば全身全霊で対応してくれる人たちが多いです。ただその現場に行くことができない子どもたちもいるんです。家から出られないために、そういう人たちとの接点が失われてしまうのは、もったいないという感覚がありました」
不登校の子どもたちが気軽に繋がれる場を模索するなか、ヒントになったのは引きこもりがちな知人がゲームをしている姿だという。
「ゲームをあまりしない私にとって、自宅にいながらオンラインでコミュニティが形成され、人間関係が構築されていく様子は非常に興味深いものでした。ゲームを通じて仲間との関係が徐々に充実していく様子を見て、オンラインゲームに可能性を見出しました」
その後、オフラインでマイクラによる支援活動を行っている団体の知人に協力を仰ぎ、「ゆるクラ」を設立。「マインクラフト」を介してオンラインのみでつながるという支援のカタチは、業界的には珍しく、手探り状態での取り組みだった。
報酬が出ない状況での活動だったが、NPO法人、マイクラサークルの学生、YouTuberなど、各分野の協力者がアイデアに共感して集まったそうだ。
それぞれが本業や学業と並行して支援活動を行い、岡村さん自身も広告会社に勤務しながら活動した。立ち上げ当初は、休日や仕事後の時間を使い、深夜まで準備に没頭することも珍しくなかったという。