画像はAIで生成したイメージ
「不要不急の外出を避ける」「三密を回避する」など、誰もが自粛を強いられていたコロナ禍において、命知らずとも言える行動をとっていた高齢男性がいる。
「それは他でもない私のことです!」と胸を張るのは栃木県在住の田村弘敏さん(仮名)で御年76歳。
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コロナ禍において高齢者の行動が特に制限されていたにもかかわらず、田村さんは家族の反対を押し切って県外への遠征を繰り返していたのだが、その理由が63歳の彼女A子さんとの「遠距離デート」だったというのだから恐れ入る。
「A子とは出会い系アプリで知り合い、付き合うようになりました。A子は福島県在住なので遠距離恋愛でしたが、月に1~2回のペースで私が車を飛ばして会いに行っていたんです。それがコロナ禍になり、緊急事態宣言が出たことで会えなくなってしまいました。最初の3カ月くらいはリモートで話はしていましたけど、やはり物足りないじゃないですか? 息子一家と同居している私と違ってA子はひとり暮らしなんですよ。そんなA子が『この先世の中はどうなっちゃうんだろうね』なんて不安がっているんですよ? 放っておけないじゃないですか? いつ誰がどうなるか分からない危機的状況だからこそ、一緒にいてやりたかったし、一緒にいたかったんですよ」
とはいえ、田村さんの家族は猛反対。何しろ田村さんは、コロナに感染したら重篤化する危険性の高い持病がありながら、体質の関係で予防注射を打つことができない身だった。
「家族には『遠征なんて自殺行為だ』と言われました(苦笑)。どうしても行かせたくなかったんでしょうね。私だけでなく、家族全員の車のカギを隠してまで阻止しようとしていましたよ。でも私は諦めませんでした」
「濃厚接触」は20回も
田村さんは、こっそり知人の車を借りることにしたという。
「福島出身のゲートボール仲間から車を借りました。その人の車はいわきナンバーだったので、福島県内に入ってもナンバー狩りに遭わずに済むじゃないですか? 渡りに舟みたいなもんですよ」
かくして田村さんは家族の目を盗んで家を抜け出し、高速道路を使って片道3時間の距離を運転してデートに向かったのである。
「一応お互いの身体のことを考えてマスクは二重にしていましたし、消毒液も持って行きました。いつもは最寄りのスーパーで飲み物とかお菓子とか買って行くんですが、不特定多数の人間と接触しないために省略。一切寄り道せず直行しました」
数々の困難(?)を乗り越えて会いに来てくれた恋人をA子さんは大喜びで出迎えてくれ、水入らずの時間を過ごしたという。
「最初はソーシャルディスタンスということで2メートルくらい離れて座り、お互いマスクをしたまま会話をしていたのですが、それじゃあハグもキスもできないし、一緒にいる意味がないじゃないですか?」
「会いに来た意味がない」と訴える田村さんにA子さんも賛同。ふたりはいつものように「濃厚接触」になだれこんだという。
「なんだかんだで、コロナ禍の間に20回くらい遠征デートして、濃厚接触していました(笑)」
ちなみに、「家族からの感染で2回ほどコロナにかかった」という田村さんだが、思いのほか症状が軽かったそう。
「そりゃそうですよ。重篤化なんかしたら彼女に会いに行けないじゃないですか? 根性でやり過ごしました」
年齢も時代も関係なし。恋の力は偉大である。
取材・文/清水芽々
清水芽々(しみず・めめ)
1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。