ソウルラッシュのGⅠ初戴冠の裏で起きた、見過ごせない“異変”。外枠が圧倒的有利に働いた2つの要因【マイルCS】

 11月17日、秋季のマイル王決定戦・マイルチャンピオンシップ(GⅠ、京都・芝1600m)が行なわれ、単勝4番人気のソウルラッシュ(牡6歳/栗東・池江泰寿厩舎)が7番人気のエルトンバローズ(牡4歳/栗東・杉山晴紀厩舎)に2馬身半差を付けて圧勝。念願のGⅠタイトルを手にした。3着には10番人気のウインマーベル(牡5歳/美浦・深山雅史厩舎)が入り、3連単は12万8450円の波乱となった。

 1番人気に推されたブレイディヴェーグ(牝4歳/美浦・宮田敬介厩舎)はよく追い込んだものの、3着とはハナ差の4着に敗れ、英国から参戦したチャリン(牡4歳/英・R.ヴェリアン厩舎)も最後方から伸びながらも5着に終わった。また、2番人気に推された昨年の覇者ナミュール(牝5歳/栗東・高野友和厩舎)は最後の直線で脚の運びに異常を感じた鞍上が馬をスローダウンさせたため、大差の最下位となった。なお、下馬したのちの診察では大きな異常は見られなかったと伝えられている。

 それにしても、極端な結果だった。

 1着から7着までの馬番を見ると、2番から出て4着となったブレイディヴェーグ以外は、すべて6枠以降の外枠に入った馬たちである。1着から順に枠番を記すと13、17、14、2、11、15、16となる。内枠の馬はまったくと言っていいほど勝負にならなかったのだ。
  なぜこうした現象が起こったのか。それには2つの要因が考えられる。

 まず一つ目は、内ラチ沿いの馬場の傷み。京都の芝Bコースを使い始めて3週目ともなると、いかにしっかり作られた馬場であっても、やはり内から傷んでくることは避けられず、馬場の外目をスムーズに差してきた馬が上位を占めやすい傾向を示していた。例えば当日の第9レース、比叡ステークス(3勝クラス、芝2400m)でも、6着までの馬番を記せば、14、9、12、16、10、13となり、9番枠より外の馬しか上位に来ていないのだ。ゆえに、馬場の傷んだ部分を走らせられる内枠の馬たちは、スタートする前から非常に苦しい条件を課されていたと言っていいだろう。

 二つ目の要因は、そうした強いトラックバイアスがありながら、争覇圏内にいるとみられる追い込み脚質の馬たちが揃って内めの枠に入ってしまったことだ。

 2番人気のナミュール(4番枠)をはじめとして、1番人気のブレイディヴェーグ(2番枠)、5番人気の5番枠ジュンブロッサム(牡5歳/栗東・友道康夫厩舎)、穴候補と見られた8番人気の6番枠オオバンブルマイ(牡4歳/栗東・吉村圭司厩舎)。特にナミュールとブレイディヴェーグの2頭は上位人気だけに、ジョッキーの騎乗からは「(良い)位置を取りたい、早く馬群の外へ持ち出したい」という焦りにも似た気持ちが汲み取れるような騎乗ぶりだった。 レースを簡単に振り返ってみよう。

 スタートでチャリンとジュンブロッサムが立ち遅れ、それぞれ14番手、16番手と後方に置かれる。バルサムノート(牡4歳/栗東・高野友和厩舎)がハイペースで引っ張るなか、ウインマーベルは4番手を追走し、中団にエルトンバローズ、ブレイディヴェーグ、セリフォス、オオバンブルマイなどが密集してレースは進んだ。

 動きが出たのは第3コーナー過ぎ。ウインマーベルが積極的に仕掛けて出ると、エルトンバローズもそれに連れて動き始める。そして直線、馬場の中央を通ってウインマーベルが先頭に立つが、そこへソウルラッシュが強襲。力強いフットワークで鮮やかにウインマーベルを差し切ると、さらに後続との差を広げていく。

 その後ろではウインマーベル、中団から伸びてきたエルトンバローズ、ブレイディヴェーグ、後方から急追するチャリンが激烈な争いを繰り広げるが、ソウルラッシュは鞍上の団野大成騎手がゴール前で立ち上がって雄叫びを上げるほどの余裕をもってトップでゴール。2、3着争いは、終いまでしっかり伸びたエルトンバローズが2番手に上がり、粘ったウインマーベルが3着。ブレイディヴェーグはそれにハナ差届かず4着となり、チャリンが意地を見せて5着に入った。
  ルーラーシップ産駒のソウルラッシュは7度目のGⅠ挑戦、マイルチャンピオンシップは3度目の参戦にして初の戴冠。昨年の本レースを2着、今年の安田記念(GⅠ)を3着と、善戦しながらもなかなかタイトルには手が届かなかったが、6歳の秋にしてモヤモヤを一気に払拭するような圧勝劇を披露した。

 外の13番枠からのスタートを生かしてごちゃつきを避けながらスムーズなレース運びで大望を果たしたソウルラッシュ。混戦模様のレースでは、こうした差が勝敗を分ける重要なポイントとなる。喜びのあまりゴール前で立ち上がったため過怠金5万円を課された団野大成騎手は、「ある程度テンに付いていけないのは覚悟していたので、そこから馬のリズムでしっかり運べたかなと思うし、それが最後の伸びにつながったのだと思う」と、前走からの連続騎乗を依頼してくれた陣営への感謝とともに勝因を振り返っている。

 ソウルラッシュは今後、順調ならば招待を受諾している12月8日(日)の香港マイル(香港・G1)へ遠征し、昨年4着のリベンジを目指すとのことだ。 エルトンバローズは、自在性を生かして中団から2着にまで差し込んできた。ソウルラッシュとは2馬身半差を付けられたが、4着だった昨年から着順を上げており、まだ4歳だけにまだこれからの伸びしろがありそう。まずは来春の安田記念に向けて注目を続けていきたい存在だ。

 ウインマーベルは、初のマイル戦だったが、短距離馬のスピードを生かし切っての大健闘の3着。最後に甘さが出たのは距離適性の問題だと思われ、やはりベストは1ハロン短い1400m。陣営はこの距離にGⅠがないことが恨めしいことだろう。

 ブレイディヴェーグは勝ち馬と同じような位置から差し脚にかけたが、エンジンのかかりがワンテンポ遅かったために差し届かなかった。中団に付けられさえすれば、爆発的な末脚でカバーは可能とみていたが、勝負所での反応の鋭さを欠いたのは、やはり中距離に特化した距離適性ゆえのことだと認めざるを得ない。1800~2400mでのリスタートに期待する。
  英国から参戦し、時計勝負への適応力は未知数だと評されたチャリンだが、やや出遅れたうえに、これまで勝ったマイルG1は直線コースのみという馬であるがゆえか、道中は不器用さをのぞかせながらも、怒涛の追い込みで2着争いに加わったのは立派と言っていい。自腹で本レースに参戦し、大いに盛り上げてくれたことに敬意を表したい。

文●三好達彦

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