Credit: canva
友達がいなさすぎて独りブツブツ話し続けるイルカが見つかったようです。
南デンマーク大学(SDU)の研究チームはこのほど、地中海のバルト海にて、1頭で孤立しているハンドウイルカが何年も独り言を続けていることを発見しました。
その海域には他にハンドウイルカの仲間がおらず、この個体は孤独のあまり自分だけで喋っているか、仲間を呼び探しているのではないかと考えられています。
研究の詳細は2024年10月31日付で科学雑誌『journal Bioacoustics』に掲載されました。
目次
ひとりぼっちなのに喋りまくるイルカを発見なぜ「独り言」を話しているのか?
ひとりぼっちなのに喋りまくるイルカを発見
ハンドウイルカ(学名:Tursiops truncatus)は世界中の海に分布する最もよく知られたイルカの一種で、通常は小さな群れで生活する社会的動物です。
ハンドウイルカは鳴き声も多種多様に発達しており、それらを巧みに使って、仲間とコミュニケーションを取っています。
ところが2019年9月、バルト海に浮かぶデンマーク中央部「フュン島」の南側の海域に、一風変わったハンドウイルカが見つかりました。
フュン島(赤色) / Credit: ja.wikipedia
このハンドウイルカはオスの個体で、地元民からは「デル(Delle)」の愛称で呼ばれています。
ところが研究者がその外見をよくよく調べてみると、個体番号1022としてイルカ生態研究のカタログ・データに記録されている「ヨーダ(Yoda)」という個体であることが判明したのです。
ヨーダは2007年の生まれであり、今年で17歳になります。
背びれに特徴的な切れ込みがあるため、他の個体と識別しやすかったのでした。
ハンドウイルカの「ヨーダ」の姿 / Credit: Dolphin Project(2021)
ヨーダは元々、スコットランドの海域で暮らす「モーレイ・ファース(Moray Firth)」と呼ばれるハンドウイルカの群れで生まれています。
ところが2017年9月、ヨーダは故郷を離れて行方知らずとなり、2019年に突如としてフュン島の南海域で発見されたのです。
このフュン島の南海域には小型のネズミイルカが住んでいるものの、ヨーダと同じハンドウイルカは生息していません。
それゆえ、ヨーダは少なくとも2019年以来、ひとりぼっちで暮らしていると見られるのです。
さらに南デンマーク大の研究チームが水中に録音装置を設置したところ、驚きの結果が得られました。
なんとヨーダは他に誰も仲間がいないにも関わらず、多種多様な鳴き声を発して喋り倒していたのです。
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なぜ「独り言」を話しているのか?
この調査は2022年12月8日〜2023年2月14日までの69日間に行われ、合計で1万833回のヨーダの鳴き声が録音されました。
その中には一般的に同種の仲間とコミュニケーションを取るときに使われる鳴き声も多分に含まれています。
種類も多様で、2291回は口笛を吹くようなホイッスル音、2288回は攻撃性を示すこともある急速なクリック音、5487回は低周波音、767回は打楽器のようなパーカッションでした。
a:1日ごとの発声頻度、b:時間帯ごとの発声頻度、c:コミュニケーション発声とエコロケーションの同時発生の頻度 / Credit: Olga A. Filatova et al., journal Bioacoustics(2024)
研究主任のオルガ・フィラトヴァ(Olga Filatova)氏も「最初は好奇心からヨーダの鳴き声を録音しましたが、これほど膨大で多種多様な鳴き声が録音できるとは思っていませんでした」と驚きを口にします。
またフィラトヴァ氏らが注目したのは、ヨーダが3種類の異なる「シグネチャー・ホイッスル」を使っていたことでした。
シグネチャー・ホイッスルとは、それぞれのハンドウイルカが幼い時期に学習して生涯にわたり使用する個体に特有の鳴き声パターンのことを指します。
私たち一人だけが持っている名前のようなものです。
つまり、ヨーダにならヨーダだけが発する鳴き声パターンがあるのですが、なぜか彼はそれを3つも持っていました。
フィラトヴァ氏は「もし彼が一人でいることを事前に知っていなければ、少なくとも3頭のハンドウイルカが交流をしているように見えたでしょう」と話しています。
Credit: canva
では、なぜヨーダはひとりぼっちなのにこんなに喋りまくっていたのでしょうか?
研究者らは当初、地元のパドルボーダー(パドルを漕ぐ人々)とコミュニケーションしようとしているのではないかとも考えましたが、人々がいない夜間も変わらず鳴き声を発していたので、これは明らかにヨーダの独り言でした。
独り言を発している本当の理由はヨーダに聞いてみないとわかりませんが、研究者らは「社会的孤立がヨーダに自己対話を促した可能性がある」と指摘しています。
ハンドウイルカは私たち人間と同じように、仲間と会話をすることで社会的絆を維持する生き物です。
しかしヨーダは仲間との社会的交流が絶たれているため、自分で自分を刺激したり、慰めるために自己対話(つまりは独り言)を発していると考えられます。
私たちもひとりぼっちで孤独を感じていると、自分で自分に突っ込んでみたり、頭の中の考えを声に出してみたり、とりあえず歌を歌ってみたりと、気を紛らわしたり、ストレス発散をすることがあるでしょう。
それと同じことをヨーダはしていたのかもしれません。
またチームは他の仲間を探して呼びかけている可能性も指摘していますが、「ヨーダはすでに3年間も同じ海域で過ごしており、他に仲間がいないことは十分に理解しているだろうから、その可能性は低い」と述べています。
しかし、独り言のような自己対話ができることはイルカが非常に賢いことの証拠です。
ヨーダは今日もひとりでブツブツ独り言を呟いているのかもしれません。
参考文献
Dolphin in the Baltic Sea has been talking to himself — and researchers think it’s a sign he’s lonely
https://www.livescience.com/animals/dolphins/dolphin-in-the-baltic-sea-has-been-talking-to-himself-and-researchers-think-its-a-sign-hes-lonely
One Dolphin’s Story – Yoda
https://www.dolphinproject.com/blog/one-dolphins-story-yoda/
元論文
Dolphin self-talk: unusual acoustic behaviour of a solitary bottlenose dolphin
https://doi.org/10.1080/09524622.2024.2422092
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。
他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。
趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
ナゾロジー 編集部