F1界の自転車好きと言えば、バルテリ・ボッタス(キック・ザウバー)が有名だ。パートナーは自転車競技の選手であり、自身も自転車レースを立ち上げたり、日本GPの決勝日には午前中に鈴鹿近辺を走り回る姿が目撃されるなど、F1と自転車のどちらが本業なのか、わからなくなりそうだ。
ただボッタス以外のドライバーも、多くが自転車を楽しんでいる。趣味としてもそうだが、トレーニングとしても非常に有効だと言われていて、F1ドライバーのみならず、日本のレース界でも自転車に乗るドライバーは多い。
フェラーリのカルロス・サインツJr.もそんなひとり。しかも彼は今年、とんでもない人と一緒にサイクリングをしたようだ。
その”とんでもない人”とは、タデイ・ポガチャルである。ツール・ド・フランスではこれまで総合優勝3回。今年はそのツール・ド・フランスと、ジロ・デ・イタリアという世界三大ツールのうちのふたつを制覇し、さらにはUCIロード世界選手権大会にも勝利。37年ぶりに”トリプルクラウン”を達成してしまうという、現代自転車界のトップスターである。
サインツJr.曰く、ポガチャルとはモナコでご近所さんの間柄。その縁もあって、自転車に乗ってコーヒーを飲みに行くことになったわけだが……サインツJr.にとっては大変な1日になったようだ。
「モナコで近所に住んでいるから実現したんだ」
サインツJr.は、アメリカGPの際にそう語っていた。
「モナコでは、僕らがコーヒーライドと呼ぶ、簡単なサイクリングを何度かやってきた。30〜40km走ってコーヒーショップに行き、そしてコーヒーを飲んで帰ってくるだけだ。そういう日には、無理をしないんだ」
「でも、僕はサイクリングでは負け犬だ……。僕らは身体的にも強いと思っている。だから、彼と一緒にコーヒーライドに行けると思ってしまった」
F1ドライバーは、他のスポーツ選手と比べても驚異的な身体能力を持っていると言われる。特に心肺機能は優れているはずだ。しかしそんなサインツJr.をもってしても、ポガチャルとサイクリングを楽しむのは不可能だったという。
「コーヒーライドなのに、彼についていこうとすると、死にそうになるんだ……彼は僕を置いていこうとはしないんだ、会話しているからね。でも、僕の心拍数は170とか180まで上がっているのに、彼は110……そんな心拍数では僕らはあんまり話せないから、エキサイティングな会話にはならないんだけど」
しかもこの日のポガチャルは、大会が終わったばかりのリカバリーライド……つまり回復走だったらしい。回復走とは、心拍数を上げず、体に負荷をかけずにゆっくりと走り、身体的な回復を促そうというものだ。それでも、サインツJr.にとってはついていくのがやっとというありさまだった。
「僕は彼のために、リカバリーライドに行くという素晴らしいアイデアを思いついた。でも、僕にとっては人生で最も厳しいライドだった」
「彼は世界選手権で優勝した後、リカバリーモードに入っていた。そして彼はリカバリーモードなのに、僕の心拍数は上がりっぱなしだった……違いがハッキリわかるよ」
「僕らは同じアスリートだ。もちろん、反射神経やクルマのハンドリング、スキルという面で、僕らがやっているのが特別だ。でも、彼が自転車に乗ってやっていることは、ただただ素晴らしいというだけなんだ」
「自転車に乗ったことのある人なら誰でもそう思うと思うけど、彼が自転車に乗って、どれだけプッシュしているのか、想像もできないよ……」
なおサインツJr.は、今年は例年以上にサイクリングを楽しんだらしい。その甲斐もあり、ロードバイクメーカーのスペシャライドのカスタムカラーバイクを手にしたようだ。